潮風の香りに、君を思い出せ。
駅前の住宅街を道を思い出しながらなんとか抜けて、幅広の階段から砂浜に降りる。私の手には朝ごはん。また守ってもらえば大丈夫でしょう。
海を横に見ながら砂浜を歩いていく。今日はまた晴れてきそうだけど、そんなに暑くはない。海はやっぱり今日も、思ったよりも広かった。
ちっちゃいなぁ、私。海辺の広い空を見上げて思う。
いなくてもわからないくらい小さくて、いてもじゃまにもならないくらい小さい。
どっちでもいいなら、いたいところにいるって決めたの。
いないほうがいいわけないと言ってくれたのが大地さんで、いてもいいんだと自分で決めたのが私。
少し離れたところで、自転車が停まった。同じようなコンクリートの階段で砂浜に降りてくる。片手にはピンクのビーチサンダル。
「大地さん!」
名前を呼んで走って行った。顔はよく見えないけど、そんなのもう関係ないし。
一度挙げた手を降ろして、大地さんが待ってる。
「おはよう、七海ちゃん。思い出せただろ?」
まだ走りながら出会った目に、深い笑いジワができた。
返事の代わりに駆け寄って飛びつく。勢いでぐらりと身体が揺れた後、「どうしたんだよ」と笑う声と力強い腕が抱きしめてくれた。
今日も香水つけてるかもしれないけどもうわからないな。風も強いし、私もつけてきちゃったから。
『忘れてもわかんなくてもいいよ。思い出させるよ』
そう言ってくれた言葉を信じることに決めたから。
思い出させて、何度でも。潮風の中でこんな風に笑う姿を。
THE END