潮風の香りに、君を思い出せ。

番外編 セラピストあかりの恋愛相談

アロマセラピーのお客様を送り出して、あかりが店じまいをしていると、店の前をそそくさと大地が通っていくのが見えた。

「大地」

逃げようとしてることに気づいて、店の前で自転車にまたがった大地に声をかける。大地はバツの悪そうな顔をして「よう」と手を挙げた。

「なに逃げてんの」

「いや、忙しいかなと思って」

「もうちょっとマシな言い訳して」

「や、明日早いし、帰るから今日はほんと」

「話せば長い話とか、ナナの結婚の話とか、いろいろ聞こうと思ってたんだけど、それどころじゃなさそうね。お茶でも入れるから入って」

あかりは返事も聞かずに店の中に戻っていく。ため息をついた大地が、自転車を停めて後に続いた。




コーヒーを入れたあかりは、大地に向かい合うようにレジ横の椅子に座る。

「七海ちゃんが泊まるんだって?」

「梨香の部屋だよ、別に」

「当たり前でしょ、誰もあんたの部屋とか思ってないから」



落ち着かない大地の挙動に思うところがあり、聞いてみることにする。

「七海ちゃんに何したの」

「してない。そんなあかりが思ってるようなことはしてない」

「思ってないようなことはしたわけだ」

「いや、違うから。無理矢理とかじゃないし、ていうかなんであかりにそんな話しなきゃいけないだよ」

「何よ、自分で勝手に喋ってるんでしょ。なるほど、勢いでキスしちゃったけど、七海ちゃんがどう思ってるかわかんなくて困ってると」

「え、お前、なに」


大地が驚愕して言葉を失っている。わかりやすいやつ。カマかけたら図星ね、とあかりはため息をつく。


「大地のやりそうなことぐらいわかります。ほっとけないタイプでしょ、ああいうしっかりしてそうだけど脆い感じの子」

「逆だよ、おとなしそうだけど芯が強いんだよ」

開き直った大地がコーヒー片手に言う。へえ、それは意外な評価。
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