潮風の香りに、君を思い出せ。
「おとなしいっていうか距離とってる感じするんだけど、結構毒舌だし勝気なとこもあるし、素は強いんだよ。でもグラグラしてて、まあそうだよ、ほっとけないと思ってたんだけど、手を出すつもりとかなかったんだよ。彼氏いるんだよ」

いろいろうるさいけど、うろたえているのは『彼氏いる』ところらしい。真面目か。

「ああ、そこ。それはまあ、いいんじゃないの、婚約してるわけでもないんだし。大地もわかったでしょ、彼氏持ちでもつい手を出しちゃう気持ちが」

「そこはまた考えるけど。とりあえずどうすりゃいいの、俺。拒否られた、途中で」


なんで話さなきゃいけないのとか言っていた割には大地は詳細を語っている。途中ってなによ。未遂だったわけじゃないよね。想像しちゃうからやめて欲しいとあかりは顔をしかめる。

女友達にこういう話しちゃう男って最悪だよね、と冷たい目線を向けても、自分のことで手一杯の大地は気づく様子もない。しかたない男だ。

「そこは押しの一手でしょう。中途半端に手出してきて引いちゃう男が一番ムカつくよね」

「それお前だけじゃない?」

「さあね。七海ちゃんかぁ。大地を喜ばせる気はないけど、少なくとも気はあると思うよ。年上のそこそこいい男がさ、自分のために1日サボって色々世話してくれて、ほだされないのは難しいよ」

「俺の顔、同じに見えるって言ってたよなぁ。見た目とか通じてねえよ」

昔から、見た目のかっこよさと中身の素朴さのギャップで周りの女子を失望させてきた自覚が大地にもある。

今になって、その見た目さえ通じない女の子に出会って動揺しているのか。ワガママな奴だと、あかりはもう一度ため息をつく。
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