潮風の香りに、君を思い出せ。
「あれ、七海ちゃんのためにサボったとか俺言った?」
「偶然会ってとか言ってたけど、そんな急に休んだりしないでしょ。何、ストーキングしてたの」
「いや、偶然乗り合わせたのはほんと。気づいたの1か月ぐらい前だけど。声かけようと思ってさぁ、サークル行けなくなってるらしいって知ったから」
これに関してもカマをかけたつもりだったあかりは、ひそかに驚いた。1か月も前から気にしていたとは。大地が女の子に自分から行くのはするのは珍しい。前にもあの子の名前は出してたけど。
「ふーん。親切だね随分。仕事さぼっちゃうんだ、それで」
「なんだよ。昨日遅くまでやっていろいろやっつけて来たんだよ。今日はちょっとした打合せしかなかったし」
「そこまで周到に準備しといて、今さらキスぐらいでうろたえてるって何よ」
「違うって、そういうつもりで連れて来たんじゃない」
あくまで手を出すつもりはなかったと言い張る大地を、あかりは冷やかに見つめた。
「黙るなよ。励ませよ」
ワガママ男は言う。
「ほんとしょうがないなぁ。信頼してんのよ、大地のこと。だからああやって大地さんにはわからないとか、噛み付けるわけ。男としてどうかっていうのは微妙だけど、少なくとも対象外ではなさそうだし、ほんとに嫌だったら手なんか握らせないでしょ」
「なんだそれ」
大地が怪訝そうに眼を細める。
「配達終わって戻ってきて、駐車場から見ちゃったんだよねぇ、私。邪魔しちゃ悪いかなぁって一回店に戻ったら電話ないからどうしちゃったかなと思ったんだけど? 携帯忘れてったのもわざとなわけ?」
「そんなことないって。でもまあ、ありがと、そこは」
「素直じゃん」
驚いてあかりが目を見開く。何やら本気らしいぞ、これは。