潮風の香りに、君を思い出せ。
「ほんとにそんなつもりで連れてきたんじゃないからな、最初は」

全力で何回も否定するのは怪しいんだ、とあかりは分析する。本人はどう言おうと、潜在意識では「そんなつもりで連れてきた」ことを示している。

カウンセリングの講義で聞いたはずだし、お客さんとの話でも裏づけ取れてる。


「だったらあざとすぎるよねえ、後輩の悩みに付け込んで落とそうとか。ストーカーまがいだよねぇ、電車で目をつけてたとか」

まじめに取り合っても無駄だと思い、あかりはからかうことに決めた。ほっといてもうまく行きそうだ。

「で、いつそんなつもりになっちゃったの」

「わかんねえよ。明らかにこれから連絡取る気はないみたいな素振りされて、俺だけすごい寂しくなってんのに気づいて。まぁ、ちょっと焦ったっていうか」

「なるほどねえ。彼氏いるから他の男とは会えませんて?」

「そういうことだよなぁ、きっと。気を許してるかと思えば、急に他人行儀っていうか」

「ふうん、意外とそういう小悪魔系なんだ。で、気付いたらはまっていたと」

うなだれている。どうやら図星らしい。今日連れてきて、1日でそんなにはまるわけ。

わかんないなぁ、恋ってものは。



「俺、ナナのこととか聞いておかしいのかな、精神状態が」

大地がうなだれたまま自己分析している。

「ハタチだよ、4つも下で彼氏もいる子だよ。帰したくないとかおかしいよな」

相変わらずバカだなこいつは、とあかりはうんざりして眺める。ナナと戻る可能性がなくなって、次の恋に行く気が湧いてきたってことでしょう。


帰したくないとか言っちゃったのかな、七海ちゃんに。言えないか、このヘタレは。
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