潮風の香りに、君を思い出せ。


ナナと大地は、高校の途中から付き合ってはいるものの、くっついたり別れたりを繰り返し、その途中でお互い別の相手をなんとなく作ったりしてはトラブルになり、ほんとに迷惑な二人だった。

はたから見ていれば、大地の優しさというか情の深さが、ナナを吹っ切らせていないように見えた。ナナが戻りたいと言えば、いつだって戻れる場所だったんだ、大地は。


「ナナが結婚やめてやっぱり大地がいいって言ってきたら、どうする?」

意地悪な気持ちで試してみる。あかりが二人でちゃんと話し合ったりしたほうがいいと主張しているのは、そこだ。結果的に周りをまた傷つけるんじゃないのかって。

「ないないって言っていつも戻って来たよね、あの子」

「今回はさすがにない、俺も」

「そう?」

「ナナには俺じゃなくていいって気がする、もう」

へえ。それは初めて聞いた。ナナに二股かけられたのが堪えたのか、今度の相手は本気だからなのか。


「七海ちゃんは?」

「わかんねえよ。彼氏いるんだって」

「うまくいってんの」

「いってなさそうっていうか、ほとんど気配がしない。1日一緒にいても」

「じゃあいいんじゃないの、気にしなくて。先輩と同じことするのがいやなわけ? やられといて自分もって感じ?」

「あかり、なんか怖いなぁ。マッサージとかやめて占い師かなんかやれば」

あんたはわかりやすすぎと思いながらも、アドバイスしてやるかとあかりは腹をくくった。

「そんなようなもんよ、セラピストって。話聞いて本音を引き出すみたいな。とにかく、彼氏と大地と、どっちを取るかは七海ちゃんが決めることでしょ。それとも、別れさせちゃってから責任取れないかもとかそういうこと?」

「そんなこと考えてないけど。ていうか俺、かなりやばいって今」

「落ち着きなさいよ。別に今すぐ結論出さなくてもまた会えばいいんだし、急ぐことないでしょ」

「だよな。どうかしてんだよ、俺」

「今どうしてるの、七海ちゃん」

「母さんと喋ってるんじゃないの。俺てんぱってすぐ出てきちゃったし」

「最悪だね、顔だけだね、ほんと」

「励ませよ」

「はいはい。あの子、大地のそういうところわかってそうだった。でも怒ってるかもしれないけどね。もしそれでもいいって言ってくれたら本物だよ。がんばれ」

そう。ちょっと不思議な子だ。きちんと敬語を使うけど、どこか対等な振る舞いをする。自分をバカだと恥じていながら、でも卑屈ではない。
< 154 / 155 >

この作品をシェア

pagetop