潮風の香りに、君を思い出せ。

「七海ちゃん、いつまで笑ってんの」

ふてくされた声が聞こえて、やっとなんとか笑いを抑える。

「すいません。私がそうなるはずだったのに、かばってくれたんですよね」

「ほんとだよ、かばい損だよなあ。ま、七海ちゃんが無事でよかったよ。俺はそんなに笑えないしね、そうなったら」

「はい。ありがとうございます、先輩」

そうだ、こんな格好にさせたのは私だった。笑ったらダメなんだと思いつつ、それでも笑っちゃう。だってこの人全然怒ってないし、動じないんだもん。



携帯の砂を慎重に払って胸ポケットに戻した大地さんが、やっと笑いのおさまった私を見下ろす。

「行くか。でもちょっと腹減ったなぁ。食ってこうか、買ってきたやつ」

「トンビ大丈夫ですか」

「奴らに見られないようにするんだよ」

大地さんは開き直ってそのまま砂浜に座り、私にはビニール袋を貸してくれた。

コンビニの袋から食べ物が見えないように隠したまま、さっと食べるのがコツだと教えてくれる。

やってみると、なんだか楽しい。



お菓子を大地さんにも分けながら食べた後、菓子パンを出してみたけど、暑くてあんまり食べる気がしなくて、一口かじって持ったまま袋の上に置いた。

ピーヒョロヒョロと鳴き声が聞こえて上を向いたら、手が伸びてきて勢いよくパンを飛ばされ、その手で乱暴に抱き寄せられた。

ひっ、と声が出た。

大地さんが慌てたように私を離して「ごめん、怪我してないよね?」と聞いた。

身体を離されてから見ると、飛んで行ったパンはそばで無残な形に千切れた切れ端になって残っていた。

トンビって、こんなに凶暴なの?



「大丈夫です。油断してました。こんなに急に来ると思ってなくて」

「だよね、俺もうかつだった。ビックリするんだよ、慣れてないと。指ケガしたりもするし」

「あの、いろいろとすみません、バカで」

笑い転げていたさっきと違って、気まずくて慌てて謝った。

「またそれ。バカとか関係ないって」

「あ、すいません」

でも失敗続きで、大地さんがなんでも許してくれるからなお申し訳ないと言うか。

「また来そうだなあ、行こうか」

「はい」

立ち上がって、大地さんは背中とお尻についた砂を力強く払った。



男の人の腕だった。びっくりして、心臓がバクバクした、さっき。のんびりした感じの人だから、ギャップが大きい。

ドキドキしたんじゃないから、なんでもないことにする。彼女持ちだし、単に後輩として構ってくれてるだけだと自分に念を押した。
< 25 / 155 >

この作品をシェア

pagetop