潮風の香りに、君を思い出せ。
「じゃあ先に食べて行ってね。大地が帰ってきてるって言ったらたくさんパンもらったし」
そう言って香世子さんは素早く台所に立つ。私もお手伝いで大きなパンを切ったりした。
香世子さんのバイト先はパン屋さんだということで、惣菜パンも甘いパンもいろいろある。さっきの菓子パン食べなくてよかった。ありがとう、トンビ。
三人でダイニングテーブルを囲んだ。香世子さんはパン屋さんの仕事がとても好きらしく、止まらないようにいろいろ話してくれる。パートではなくバイトだというところにこだわりがあるらしい。パートって言うとおばさんぽいからって。
「十分おばさんだよ、なに若ぶってるんだか」
「でも大地さんもさっき、母親のバイト先って言いましたよね、海にいた時」
思い出しながら指摘したら、意外そうに大地さんが私を見た。
「え?そうだった?」
「そうですよ。香世子さん、私コーンパン食べてもいいですか? これ大好き」
香世子さんが素早く用意しておいてくれたシチューとたくさんのパンを食べて、限界まで満腹になる。
シャワー借りたりご飯頂いたりして、友達のうちに来たみたい。ワンピースも洗濯したから干したらすぐ乾くと言ってくれる。
親切だけど気を遣わせない。そういうところも親子で似ている。大地さんはいろいろお母さん譲りなんだ。
「今度はなに笑ってんの」
大地さんが隣で目ざとく聞いてくる。
「笑ってないです。よく似てると思って、お母さんに」
「え?」
「話し方とか、親切なところとか、色々。大地さんてお母さん子でしょ」
「え、いや、そうかな」
また変な相槌。さっきからちょっと変? なんだろうって見たら目をそらされた。
「マザコンって意味じゃないですよ?」
「そう聞こえたけど」
そう? 全然マザコンぽくないけど、大地さんは。
「マザコンの人は、ママに先にお伺い立てないと家に女の子なんか連れて行けないんですよ」
意地の悪い声が出てしまってから、反省する。毒吐いちゃった、今。彼のことだ、いや元彼か。嫌味な口調だった。
「えーっと。俺の自転車はあるよね?」
大地さんもたぶん私の悪口に気づいて、香世子さんのほうを向いて話を変えた。
今さら悪口なんて言って、性格悪いな私。