潮風の香りに、君を思い出せ。
「こうやって乗るんですね、二人乗りって」
後ろから声をかける。風を切っているから少し大声で話さないと聞こえにくいみたい。
この乗り方、実は結構私は恥ずかしいんだけど、気づかれてはなさそうだ。大地さんて、なんか無頓着。こういう無造作なスキンシップで男っぽさを見せるのはよくないと思います、彼女持ち男性としては。
「したことない?」
大地さんも大きな声で、ちょっと振り返りがちに話してくれる。スピードが落ちるけど、話ながら行くほうが楽しいよね。
「子供の時以来かな。でも憧れてました、高校生のときとか」
「彼氏と二人乗りってこと?」
「はい。でもチャリ通じゃなかったし、彼もいなかったので実現せずです」
「サークルの奴らと移動するのに自転車乗ったりしない?」
「あ、タクヤの後ろなら乗ったことあります。勉強しにファミレスに行こうとか言って。忘れてた」
聞かれてやっと思い出した。またバカをさらしたことにがっかりする。
そうそう、同じ学年のタクヤの後ろに乗せてもらったことなら何度かある。ママチャリの大きなサドルにつかまってたし、かけらもドキドキしないのでカウントされてなかった。
「仲良さそうだよねぇ、七海ちゃんの代」
「そうですか?」
大地さんに言われてふと気がつく。大地さんってあれ以来サークル行ってないのかな。去年は新歓合宿以降全然見かけなかったけれど、私が休んだ時に来てたかもしれない。
また新歓合宿だけ行ったという可能性もある。私が何か月も行ってないとか、まさか大地さんも知ってる?
「顔出してないんだって?」
ちょっと間をおいてから大地さんが聞く。そうか、やっぱり知ってるんだ。今日、もしかして言い出すタイミング図っててくれたのかなと今頃気づいた。
「同学年では遊んだりしてますけど、テニスはしばらくしてないんです」
どう言われてるのかよくは知らないが、大地さんが理由までは聞いていないといい。
「アサミと揉めたって?」
「それもありますけど、いろいろ忙しかったからなんとなく。三年になると結構来ない女子も多いですよね」
意外とよく知られてることがわかって、つい言い訳じみた早口で答えた。だんだんゼミを優先したり、就活で忙しくなったりする人が多いのは嘘じゃない。
ただ、ちょっとそれが早まっちゃっただけなんだ。二年生の終わりだったから。