潮風の香りに、君を思い出せ。


「そうなんだ。新歓合宿行ったらいなかったからさ」

大地さんはごまかされてくれたようで、気軽な声が返ってきてほっとする。

「また合宿だけ来てたんですか? 普段も顔見せたらいいのに。みんな喜びますよ」

「そろそろなぁ、アサミ達ももう四年だし。合宿行くのもこれで最後だなって思ったよ。いつまでもOB来てるのも気をつかうしね」

そうかな。確かにうるさい感じの先輩もいるけど、大地さんは本当に歓迎されていた。アサミさんなんて走ってきてたもんね。

やっぱり新歓合宿には来てたんだ。なぜだかOBが結構集まるあの合宿には、こないだ卒業した先輩達もきっと来てたんだろう。



「俺より七海ちゃんだよ。出てきてほしいって言われてたよ」

終わったかと思ったのに、話を蒸し返される。意外としつこい。

「うーん、卒業式の時にはさすがに行ったんですよ」

ちょっとだけ。アサミさん達の目につかないようにしつつ、先輩達にあいさつしたりした。

「四年なんて今来てないんじゃないの、まだ就活中だろうし」

いつのまにか、大地さんにもサークルに戻るように勧められている形になっている。

「そうですね」

でも行くとも行かないとも言わず、あいまいに答えておく。




四年生があまり来ないのは本当でも、逆にリクルートスーツで来られてまた間違えたらと思うと怖い。注意してればたぶん大丈夫だと思うけど、最近自信がない。

ちゃんと覚えたと思っていたサークルの人がわからなかったことは、私にとってもちょっとショックだった。

いつまでも気にしてるほうが変なのかもしれないし、行ってもいいのかもしれない。ただ、きっかけがないし、なんだか今更に感じる。また一年生を覚えなくちゃいけないのも、気が重いよ。

ほんとに覚えられないんだなってまた呆れられて、わざとじゃないのってまた言われる?一年相手だったら、そんなこと誰も気にしないんだろうか。



ダメだ、考えると暗くなる。今日はもういいよね、全部忘れておきたい。
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