潮風の香りに、君を思い出せ。


緩くて長い上り坂になって、二人とも自転車を降りて歩いた。

汗が出るほどに暑い。薄手の白シャツの袖をまくって、五分袖ぐらいにする。私もTシャツにすればよかったかなぁ。シャツを脱いでタンクトップになりたいくらいだ。でもまるで真夏のようでやりすぎかなと我慢する。

自転車を押している大地さんのほうがもっと大変なんだろうけど、Tシャツだからか暑いとか言わない。きっとよく歩き回っている営業マンと、最近テニスもやらない私では、体力の差が大きいのかもしれない。



「テニスをやる腕に見えないな」

私が考えていたことを読み取ったように、大地さんが袖まくりした腕を見て言う。

「白いってことですか」

「白いし、細い」

いかにも弱そうだなって思ってるのかわかる言い方だ。そんなことはない。腕は細いかもしれないけど、私は女子にしては結構重い球を打てる。これはちょっと訂正しておかないといけないだろう。


「大地さん知らないかもしれないですけど、私、高校からやってるし、かなり上手いほうですよ」

「知ってるよ。試合してるの見たことある」

「セカンドサーブだったら、大地さんより速いかもしれない」

言いすぎかな。でも大地さんがセカンドで弱腰になってミスっているのを見たことがある。

「え。俺が苦手だって知ってる?」

やけに驚いたように、私を振り返って聞いてくる。たまに来る人の試合は珍しくて面白いから、私だってよく見ている。

「私も試合はチェックしてますから」

「そうか。俺のへたれっぷりがばれてるのかぁ」

「そういうところでは緊張しないので、私は」

「だよね。プレースタイルは強気なんだな、と思った」

大地さんはため息をついて登って行く。言い過ぎたのかなぁ。さすが男子OBだけにうまいのも知ってるけど、ちょっとダメなところがあるのが人気の秘密じゃないかと思う。近づきやすい感じがする。



話していたら、随分久しぶりにテニスをやりたくなった。

ペアを組んでた先輩とも、最後に試合をしたかったな。今年は経験者の1年女子が入ってきたって誰かが言ってた。テニスはやりたいんだけど、そうは言ってもなぁ。
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