潮風の香りに、君を思い出せ。
「もしかして、警戒してる? 俺そんなに怪しいやつじゃないよ」
リラックスした笑いを含んだ声がまた言う。女の子に声をかけ慣れてるのかもしれない。
黙ってないで明るく断ったほうがいいのかもしれないと思い直す。口を開こうとしたとき、予想もしなかったことを言われた。
「明海大学文学部英文学科の子でしょ。七つの海と書いて七海ちゃん。レインボウっていうテニスサークルに入っている」
息が止まった。この人、ストーカーか。サークルまで知ってるとか、いつから目をつけられているわけ。
手が震えだしたのを必死で抑える。怖がってると思われたらまずい。
「私彼氏いるし、知らない人とどうこうってタイプじゃないので、そういう誘いならお断りします。ごめんなさい」
小声気味で早口になっちゃったけど、毅然と断れた。
ここで相手を非難したらダメだ、怒り出すかもしれない。あくまで、私は流されやすい従順なタイプでないことだけアピールする。
私をバカだと言うお姉ちゃんに、よく言い聞かされている態度。
ストーカー男は、堪えきれないようにふきだした。
「ストーカーだと思われてる? 相変わらず面白いなぁ、七海ちゃん」
相変わらず? 間違えた、知り合いか! またやっちゃった!
慌てて左を向き、初めてこの人の顔をしっかり見る。
確かに見覚えがあるような気がする。髪型は変わってる可能性がある。目の形、鼻から口にかけての特徴。顔の輪郭。
誰だ? 社会人だよね。七海ちゃんって呼んだってことは、高校の先輩?
わからない、きっかけになる特徴が見つからない。