潮風の香りに、君を思い出せ。
「で、残念ながら今回も忘れられてたんだよ」

「あら残念。それで思い余ってさらって来ちゃったの?」

「まあ聞け。とにかく朝電車で会って、忘れてたのを声かけて思い出してもらって、せっかくだからサボって海でも行こうかなって言って今に至るわけだけど」

大胆に省略された説明だけど、短く言えばそういうことだ。砂まみれになって着替えに行ったなんて言いたくないだろうし。



「小湊のマリーナと漁港見に行きたいんだよなあ、七海ちゃんが前に住んでたあたりらしくって。車貸してよ」

最初に言っていた通り、大地さんは私のためだと説明して頼んでる。

「話せば長い話はどうなったの」

「長いんだっていろいろ。あとで話すって」

「配達あるんだよね、私。だから貸すんじゃなくて乗せてくのならOK。でも店長がもうすぐ休憩から戻ってくるからそれからでいい?」

「助かるよ。迎えも来てよ」

ちゃっかりしてるなぁ、大地さんはあかりさんに甘えてる。お姉さんぽいからわかる気はすると思って、二人のやり取りをそのまま聞いていた。

「大地んちにも車あるでしょ。借りてくればよかったのに。なんで自転車なのよ」

「おやじ出張で乗ってっちゃったんだって」

「で、家寄ってきたの?なに? 忘れられてたくせに香世子さんに紹介しようとか何下心だしてんの?」

「やめろって。ごめんね、七海ちゃん。こいつ中身おっさんだからさぁ」

振り返った大地さんが急に私に声をかけた。仲がいいなぁと眺めていたところだったから、びっくりして何も返せなかった。


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