潮風の香りに、君を思い出せ。
隣の棚に移ったら、こちらはオイルでなくて香水が並んでいた。瓶の形も凝ったのが多くてきれい。シオカゼなんて名前のもあるんだ。慎重に選ぼうと思ってたのに、興味があってついテスターの瓶をぷしゅっと押した。

「あ、大地さんのだ」

「え? わかったの? それ大地がよく使ってるやつ」

思わず言ったら、あかりさんが後ろからのぞきながら正解だと教えてくれた。いい匂いだなぁ、これ。ほんとに潮風っぽい、香水なのに。

「そういえば、朝電車で隣に座った時この香りだったなと思って。もしかしたらたぶん、最初に会った時も」

後ろに置いてある紙のパッケージを眺めながら話す。瓶もすっきりしているけれど、パッケージの見た目も白くてシンプルで好き、これ。



あ、そうか。あのメガネで来た去年の合宿の時はきっとつけてなかったんだ。いつもつけてるわけじゃない人はわかりにくいんだよね。

それに結構ほのかに香らせるぐらいの人なんだろう。きつい人は遠くからでもわかるけど、そういうのじゃなかったから近づかないとわからなかったりする。

「えー、大地の顔は忘れちゃったのに、香水だけは覚えてるんだ? なになに? なんかされたの、最初に会ったときって」

「してねえよ。さっきからうるさいよ、あかり」

「あやしいなぁ、なんで赤くなってんの、大地」

「なってないって、やめろ」

振り返って見てみてたら、あかりさんが大地さんのほっぺたをつついて大地さんが立ち上がって逃げた。仲良しだ。

いいな、同い年って。



二人に向き合いながら、そうだ、香りは割ときっかけになるなと思い出す。覚えようって感じじゃないけど、次に会ったときに、あの人だと気づくきっかけに。

「香りは結構覚えられるかも。毎回同じ人は特に。大地さんはたぶんつけてるときとそうじゃないときがあって、きっかけにならないけど」

「きっかけって?」

あ、なんか余計なこと話したかもしれない。でもいいか。この人達には、覚えてないことばれてるわけだし。

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