潮風の香りに、君を思い出せ。
「大地さんは私には覚えにくい顔だから、毎回同じ香水つけてる人だったらたぶんそれをきっかけに思い出そうとするんです」
我ながらよくそれで思い出せるなと思うけれど、顔以外でも使えるきっかけは色々あるなと思い出す。
「大地は普通より覚えにくいの? 特徴ない? かっこいいでしょ、結構」
あかりさんが意外そうな顔をした。かっこいい人がダメだから、特にわざとやってるって言われるのかもしれない。
「信じてもらえないかもしれないですけど、イケメンは特にダメなんです。きれいな顔だなっていうのはわかるんですけど。
俳優さんとかも見慣れるまではだいたい同じように見えて、みんなはどうして一回で覚えてるのかなぁって」
「でも、大地のことも一度はわかるようになったんじゃないの?」
あかりさんが突っ込んでくる。珍しいな、ここまで聞かれるのって。
「大地さんのことは、テニスウエアと、あと話かけてくれてたのでそれでわかった気になってたんだと思います。メガネだったり、スーツだったり、電車だったり、予想外のことがあると全然だめで」
あかりさんに本音で答えてから、本人がここで聞いているんだってことに気づく。これ、もしかしたら失礼なことを言っているかもしれない。
「例えば、明日また会ったらわからないのかな、俺」
黙って聞いていたはずの大地さんが話に入ってきた。さすがに本人には言いづらいんだけど、長い時間過ごしても無理な時もある。頻度が高い方が覚えやすい。
「明日は平気だと思いますけど、また偶然会うのはちょっと自信ないです。バカだなぁって自分でも思うんですけど」
「そうなんだ」
大地さんは黙ってしまった。最初から覚えたフリだったって言ってるわけだし、さすがに気を悪くしたかもしれない。
どうしよう、気まずい。