潮風の香りに、君を思い出せ。
そこに、タイミングよく店長さんが帰ってきた。

「あれ、大地くん?どうしたの私服で。会社辞めちゃった?」と明るく聞いてる。

そうだ、こうやって何を着ててもいつ会ってもわかるのが知り合いってものらしいのに、私にはできない。

私が絶対にいつでもどこでも絶対に見分けられるのは、家族と、中高の部活の仲間と、あとクラスの仲良い子ぐらい。アサミさんがわからなかったぐらいだし、サークルメンバーについては自信がなくなってきた。



あかりさんが私を店長さんに紹介してくれて、配達ついでに小湊まで送っていく話をつけている。

店長さんは先にちょっと用事を済ませてくると言って、もう一度外に出ていった。そこにお客さんが入って来て、あかりさんも対応し始めた。

出発前にお手洗いに行っておくことにする。別に行かなくてもいいんだけど、色々変なこと言っちゃったし、大地さんと二人で今なにを話していいかわからないから。



トイレから出るのにドアを開けると、廊下の向こうから微妙な話が聞こえてきた。

「ナナも大地も、そうやってちゃんと言い合わないよね昔から」

あかりさんが怒った声で大地さんを責めている。向こうからこちらの気配はわからないようだ。出るに出られない。

「結婚するんでしょ? 大地はそれでいいの? ちゃんと話したほうがいいんじゃない? このまま結婚しちゃって後悔しない?
私だってこのままじゃすっきりしないし、切り替えて応援とかしにくいよ」

「わかってるよ。話そうと思ってるけどさ」

大地さんはいかにも劣勢で、言い訳するように言った。



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