潮風の香りに、君を思い出せ。
開けかけたドアを、音を立てないようにそっと閉める。なに、今の。




ナナさんと結婚する。

その前に話した方がいい。

ちゃんと話さないなら、切り替えて応援できない?



もしかして、あかりさんと大地さんがそういう関係ってことだろうかと考えてみる。ちゃんと自分たちの話をナナさんにしたほうがいいってこと?

うそでしょ。そんな関係には見えない。さっぱりした幼馴染みたいにしか見えない。

さすがに違うかもしれない。もしかして大地さんに借金があるとか、恋愛がらみではない問題なのかもしれない。なんにせよ結婚前に何か打ち明けたほうがいい隠し事があるんだ、ナナさんに。




どっちにしても、大地さんは結婚するんだ。

そうなんだ。

彼女持ちどころじゃなかったんだ。婚約中か。





一度、深呼吸をする。

トイレは爽やかなミントの香り。





今度は音がするように、ドアを一気に開けてからバタバタと出て行く。

廊下から私が顔を出した時には、二人はもう話をしていなかった。



「店長帰ってきたよ。行こうか」

大地さんに何事もなかったように明るく笑いかけられて、私は頑張って微笑んで「お待たせしました」と答えた。

そのまま外に向かって行きかけた大地さんの腕を引っ張って、あかりさんが「おつり」と手を取って小銭を乗せる。それを見て一瞬ぎくりとしたけれど、私は立ち止まらず大地さんの脇をさっとすり抜け、一人で通りに面したドアに向かった。


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