潮風の香りに、君を思い出せ。
「あのさ、じゃあ俺がアサミに説明しようか? 俺あの子と結構仲良いし」
だめだ、この人は全然わかってない。
涙目のまま、思わず口を押さえてふきだした。
「ね、イケメンのくせに全然使えないでしょ? 女心が全くわからないの、こいつ。見かけ倒しなの」
「はい。よくわかりました」
運転しながらうんざりしたように言うあかりさんを見て、私は笑って言った。
でも、笑ったせいで貯まってた涙がこぼれたのを大地さんに見られないように、慌てて左を向く。
「なんだよ。俺ちゃんと説明できるよ。伊達に営業やってないって」
大地さんが不服そうにまだ言っている。
「あのね、七海ちゃんが大地に泣きついてそのアサミちゃんに対抗しようとしてると思われたらね、火に油を注ぐわけ。あんたが七海ちゃんをかわいがってるのが元凶なんだから」
あかりさんが女心を説明してあげた。
「え? 俺のせい?」
「いえ、大地さんが悪いんじゃないんです」
そこは慌てて私が訂正する。
「先輩たちが面白がって名前間違えさせたりすることがよくあって、私がわざと間違えてるように見えてたみたいで。
アサミさんだけじゃなくて、同じように思ってた人結構いるかなと思って、考えたらちょっといづらくなって」
「ああ。男たちに構われてるのを気に入らない女の子がいるのか。それならわかる」
やっと納得してくれたようで、大地さんが黙った。
親身になったのにわかるわけないとか突っぱねられて、おまけに私達二人にバカにされたのに、怒っている様子がない。むしろまだ助けようとしてくれている。
少し間を置いてから、聞きにくそうに聞かれる。
「アサミが就活してた時に会ったって聞いたけど。ヒロとこっそり会ってたって。アサミもスーツ着てたらわかんなかったってこと?」
「信じてもらえないと思うんですけど、なんでかその時ナナミって呼ばれたのもあってわからなくて。怒られてるときに間違えたらまずいから、あいまいに対応してたらますます怒らせちゃって」
「あーそういうことか。それで揉めて出てこなくなったって聞いたな。でもさぁ、まあアサミが色々うまく行ってなくて八つ当たりだろうって言われてたよ」
大地さんが話したのは、男の先輩達だろう。気にすんなよ、って言ってくれる人も確かにいた。
「いいんです、もう。別にサークル行かなくても、大丈夫だし。どうせ信じてもらえないし、いつも」
自分に向けてつぶやくように言った。
我ながらこじらせてると思うけれど、でもそれが本音。どうせ私のいうことは信じてもらえない。