潮風の香りに、君を思い出せ。
「ねえ、七海ちゃん」
あかりさんに声をかけられて、下を向いてたことに気づく。
「はい」
慌てて横を向いて運転席のあかりさんを見る。あかりさんは運転しながら、前を向いたまま話した。
「見つからなかったら、がっかりしてもいいよ」
「はい?」
言われたことの意味がわからず、間の抜けた返事をして首を傾げた。
「私たちに悪いとか思ってるかもしれないけど、私、別に七海ちゃんの記憶が当てにならなくても困らないし、どうでもいいから」
「おい、あかり」
大地さんがとがめるような声で割って入っても、あかりさんはひるまない。
「大地は黙ってて。
だから、七海ちゃん自身のためにがっかりしてもいいし、しなくてもいいし、そんなのも私にはどっちでもいいんだよ」
「……はい」
理解するのに、時間がかかった。正直に言えば、よくわからなかった。でも、大事なことを言われた気がした。
がっかりしてもいい。
思い出せないことも、間違えちゃうことも。
自分のために、がっかりしてもいい。
でも、しなくてもいいって?
見つからなかったなぁ、でもまあいいやって思うことだろうか。私だけのことを考えればそれでよくても、あかりさんも大地さんもこんなに手伝ってくれたのに、私の言うことを真に受けて信じてくれたみたいなのに、がっかりしないことはないと思う。
「はい、漁港に入りました。中までは行けないけど」
あかりさんの声で我にかえる。また考えにふけっていて気づいていなかった。顔を上げて外を見る。港の端にある駐車場に停まったので、ドアを開けて出てみた。
ここ、知ってる。ここに来たことがある。なんとなくそう思った。
海の近くまで歩いて行く。
ざらざらしたコンクリートの岸にいくつもの使い込まれた船がつけてある。先のほうには小さな浜もあって、もっと小さな手漕ぎボートのような船が並べて置いてある。さらに少し向こうに林。続く小道。ここだ。
「ここだった?」
大地さんが横に並ぶ。
「はい、ここでした」
なんだろう、涙が出た。
「やったー!」
背の高い二人がハイタッチをしてる。私にも二人一緒に手を出してくるので、飛び上がって両手でハイタッチをした。涙目のまま笑う。
なんなんだ、何にこんなに感動してるんだ、私。
子どもっぽいわがまま全開で拗ねたのに、全然怒ってない、この人達。大人だ。
それにどこか雰囲気が似てる。やっぱり付き合ってる感じじゃない。兄妹みたい。いや、あかりさんが姉かな。