潮風の香りに、君を思い出せ。

西日になってきていて、日差しがさっきよりも目に痛い。今日は朝から色々あって、さすがにちょっと疲れてきた。

「疲れた?」

「はい」

「もう帰りたい?」

「はい」

「わかった。あかりに電話しよう」

疲れを意識した途端話す気力もなくなった気がして、あかりさんに乗せてもらってもう帰りたいと思った。



手をつないだまま携帯をバッグから出そうとして、うまくいかずに大地さんは手を離した。

中を見てるけど、携帯はないみたいだ。

「ごめん、忘れてきたらしい……」

「おうちですか?」

「かなあ。そういえば使ってないな、ずっと」

思い出すように上を向くけれど、大地さんにも心当たりはないらしい。

「お店の番号ならホームページとかにあるかも」

「そうだね。七海ちゃんので検索するか。ごめんな」

お店の名前を聞いて、検索して調べた番号にかける。でも、留守電だ。

「営業中なのにな。間違えて留守設定してるとかかなあ」



疲れてる場合じゃないなと気合いを入れ直す。いや、むしろ人に頼ってる場合じゃないと思って元気が湧いてきたかも。もう少し頑張らないと。

「バス、あるんでしたっけ」

諦めて二人でもう歩き始める。さっきの駐車場に戻って、通りの方まで行ってさらに歩くのか。けっこうありそう。

「またちょっと歩くよ、平気?」

私の足元を見下ろしながら聞かれる。靴擦れにもなってないし大丈夫。ちょっと疲れてるだけ。

「大地さんこそ平気ですか」

気を遣われないように強がって言ってみたら、大地さんは薄く笑った。

「営業マンをなめるもんじゃないよ、七海ちゃん」

「さっきお店で疲れて座ってましたよ」

「ああ、そうだな確かに……なんかさ、細かいことよく覚えてるよね」

「そうですか?」

意外そうに言われた。でも、そのくらい誰だって覚えてるでしょう?バカだって自分で言ったからって、さすがにそんなになんでも忘れるわけじゃない。
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