潮風の香りに、君を思い出せ。

「忘れてたんですけど、もしかしてずっと気になってたのかな、おばあちゃんがどうなったか」

そうなのかな、それで思い出したのかな、今日。言いながらも自信がない。

「ずいぶんはっきり思い出したね」

大地さんは意外そうに言った。そう、私自身も驚いていた。お母さんとのやり取りまで思い出すなんて。

「おばあちゃん無事だったって聞いて安心した?」

「はい。最後は迷子になっちゃったみたいですけどね。でもあの時は大丈夫だったって、ちょっとほっとしました」

笑顔で話しながら、嘘じゃないと思うんだけどなんだか違和感も感じていた。

本当に心配してたかな、私。そんなこと今日まで一度も気にしてなかったのにそんなのおかしい。こうやって話しているほどおばあちゃんの心配をしたわけでもない気がする。

だいたいずっと忘れてたんだから。

薄情なくせにいい人ぶってるな、と他人事のように考える。この後に及んで大地さんの前で優しい女の子を演じようとしてるのか、私。

そう気づくと、そんな自分のかっこ悪さに落ち着かなくなる。


「覚えてなかったくせに調子いいですけどね」

慌てて自分をけなしてみる。本当のことだ、調子よすぎるでしょ。

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