潮風の香りに、君を思い出せ。



バスは混んでなくて二人で並んで座れた。私を海よりの窓側に座らせてくれたから開けた窓から風が入ってくる。潮風かと思ったけど、車の排気も混ざっててそうでもない。

「あの香水、あかりさんのお勧めですか?」

大地さんがつけていたいい香りを思い出して言う。風のせいでわからないけど、今は多分つけてないんじゃないかな。

そうだ、自転車であかりさんのお店に行った時もつけてなかった。くっついてたのに気づかないはずない。

「そう、就職祝いか何かでくれて気に入って。寮に住んでて海も遠くなって、なんとなくホームシックだったのかもなぁ。今もたまに使ってる」

「今朝もホームシック?」

「いや、どうかな。今日はちょっと気分変えたくて」

「何かあったんですか? 仕事で?」

「いや、そうでもないんだけど」

大地さんは言いにくそうに言葉をにごした。もしかして、ナナさんとのことかもしれない。話さなくちゃいけないことがあるんでしょ。

私の話はたくさん聞いてもらったけど、大地さんのことは何も知らないままだ。

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