潮風の香りに、君を思い出せ。
窓の外に、西日が差している。五月の日は長いとはいえ、さすがにもう暮れていく時間だ。
私たちの席は日陰でまぶしくないけれど、今日が終わっていくのがわかる。
バスに乗って、大地さんの家に戻って洋服を着替えて、電車に乗って家に帰る。それでおしまい。
長い一日だった。朝、電車で会ったのがずっと前みたいな気がする。
だけどもう終わっちゃう。あっという間に。
大地さんは、せっかく実家に帰って来たから泊まっていくだろう。明日は週末だし、朝の電話の感じでは予定は週明けにずらしていたみたいだった。
お別れか。
ちょっとため息をついて、聞こえちゃったかなと思って隣を見たら、大地さんは首を傾けて眠っていた。
社会人だから、昨日だって遅かったのかもしれない。別れが切なくなっているのは私だけで、大地さんは別になんてことないだろう。
それでもきっと、連絡先を聞いてこれからも時々話を聞いてほしいと言ってみたら、快く応じてくれそうな人でもある。
でも、そういうことをしたらいけないんだろうな、私。
アサミさんだって、私がヒロさんとは本当に何でもなくてもあんなに怒っていた。ナナさんだっていい気分ではないだろうし、好きだって自覚がある今となっては連絡先を聞くだけでもあざとい感じがする。
会いたくなっちゃうし、きっと。そしたらなんの気なしに会ってくれそうな気がするし。ほっとけない妹みたいな気持ちで。
何も聞かないで帰ろう。
『サークルにそろそろ行ってみるので、大地さんもまた来てくださいね』って言えばいいと決めた。