潮風の香りに、君を思い出せ。
「こんなところではぐれるなんて、さすがに心配してません」
がっかりしながらも嬉しい複雑な気持ちを隠せるように、ふてくされて聞こえるように、小さい声で言う。
「家に帰るまでが遠足だよ」
「意味不明です、先生」
ばかばかしくなって大地さんの態度に合わせる。先生気分なんでしょう、わかってるけど。でもやっぱり私はドキドキしてる。
「遠足ってさ、帰ってから落ち込まなかった? もう終わっちゃったよって」
静かな住宅街の中を、ビーチサンダルでペタペタと音を立てて歩きながら大地さんが聞く。
「私は家に帰って、楽しかったなあって思い返すほうかな。面白かったことを家族に話したりして」
「そうか。俺だけかぁ」
残念そうに上を見上げてぼやいている。
私も見上げると、もう空は暗くなりかけていた。夜ではないけどもう昼間じゃない。静かであいまいな時間。
私には遠足も結構緊張する行事だったな。特にクラスが変わったり転校したりした後の遠足は。ぼんやりしていて別の集団に入っていて連れ戻されたこともあった。
大地さんは地元のお友達とワイワイ楽しんでいたんだろう。あかりさんに世話を焼かれてたのかもしれない。
いいな、幼馴染。ずっと見てられるんだ、そばで。大人になっても、結婚しても。