潮風の香りに、君を思い出せ。
「あ、私とお姉ちゃんって、大地さんとあかりさんみたいな感じかも」
思いついて言うと、大地さんの眉根が寄った。あれ?ダメかなそれ?
「あかりって俺の姉ちゃんみたい? 一応同い年だけど」
「うーん、仲良いなってことなんですけど」
男のプライドとしてまずいか、そんなこと言ったら。それにお店での話も気になるし。あかりさんと何かあるってことあるのかな、実は。ナナさんに言えない話ってなんなんだろう。
「で、さっきの電話でお姉ちゃんなんて?子泣きババアって?」
大地さんはそっちは面白そうに聞いてきた。すごいあだ名だよね、子どもの無邪気な悪意に満ちている。
「お姉ちゃんも忘れてたけど思い出したみたいで。私が子泣きババアって呼ばれているおばあちゃんについていきそうで、お母さんが心配するから嘘ついたって」
「なるほど」
「何を気にしてたんだろうかと。忘れてたんですけどね、私も」
「そういうのって心のどこかに引っかかってたんじゃないの、忘れたつもりでも」
「そうなのかも。お母さんが信じてくれなかった、お姉ちゃんの方を信じたって感じたみたいです。バカだから信じてもらえないって」
忘れていたのにおかしいけれど、思えばあの時、真剣に言っているのに信じてもらえなかったのが子ども心にショックだったんだろう。