潮風の香りに、君を思い出せ。

いろんなピースがカチッとはまったような気がして、一人でしばらく黙って考えていた。

もしかして、何か変わるかもしれない。変えられるのかもしれない。甘いかな。そんなにうまくいくかな。

顔をあげたら、大地さんはコーヒーを飲みながらまたスマホを見ていた。私に気づいて微笑んでくれる。



でも、そのままじっと見ている。なんだかわからなくて見返すと、迷うように目を泳がせた後で口を開いた。

「七海ちゃん、俺に連絡先教えようと思ってないよね」

「そんなことないです」

慌てて答える。そんなことあるけど、そんなの気づくと思わなかったのに。

「最初から思ってたけど、ごまかすのヘタだよね」

最初から? ああ、初めて会ったとき。合宿の朝、あいさつしただけだったのに何故か覚えていないのがばれた。そう言うことだけ変に勘がいいのは、なんなんだろう。


カップを置いて、大地さんは私に向き直って聞いた。

「なんで?」

「私も聞かないほうがいいかなと思って」

「なんで?」

鈍くったってわかるでしょ、そんなこと聞かないでよ。少し目をそむけた。

「七海ちゃん?」

距離感のわかっていない大地さんが、そむけた顔を追いかけるように近づいてきて覗き込む。



近くで目が合って、きっと伝わった。

間近で見た大地さんの目が、少し困ったように歪んだ。

動いたのは大地さんだけど、間近で合った目を見つめて誘ったのは私。

そのまま近づいた唇の先だけで様子を伺うように静かに私に触れた後、一度離れて次はついばむようにして長く重なった。もう一度重ねられたとき、大地さんの腕が私を引き寄せた瞬間に我に返った。

「ダメ、です」

顔を下に向けて、目をきつく閉じて両手で押し返した。

大地さんが、はっとしたように身体を引いたのがわかった。
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