潮風の香りに、君を思い出せ。
昨日とは違う浜に着くともう薄く明るくなっていた。日の出が近いんだ。
ああ、帰ろうと考えてたくせにビーチサンダル履いてる、私。頭で考えてるだけで名残惜しいんだ、知ってたけど。
「たぶんあっちのほうだから見てて」
大地さんは遠くに見える岸の先端辺りを指す。薄くかかっていた雲が、日の出に合わせたように切れて行った。
水平線のはじ近くに強い光の点が顔を出した。すごい、きれい、と思った時にはもう思ったより早いスピードで太陽が昇り始め、あたりがぐんぐんと明るくなっていく。しずくをたらしそうな勢いで水から上がりきった時には、太陽はまぶしくて見ていられないほどだった。
ずっと無言で見入っていた。波の音を聞きながら、きれいと言うだけでもうるさい気がして。
ずっと右手をつながれていた。指を絡ませて。
もう日の出とは言えないぐらいの光を太陽が巻き散らすようになってから、やっと言った。
「すごかったです。きれいでした、元気出そう」
「だろ?」
「見に来るんですか? 日の出も」
ナナさんと、とは聞けなかった。
「見たいと思いつつ、なかなか起きれないなぁ自分では。いつでも見られると思ってると意外とね」
「久しぶりですか?」
「だね。女の子と見たのは初めてかな」
どくん、と心臓がまた跳ねた。地元つながりのナナさんとは、いつでも見られると思って見なかった、そういうことかな。ああ、それとも彼女っていうのは『女の子』とは別枠なのかもしれない。
風に流された髪を直す振りで、つながれた手をさりげなく離した。