潮風の香りに、君を思い出せ。
「七海ちゃん」
何か言われると思って身構える。昨日考えた通り笑って言うんだ、彼氏がいるからって。
「おばあちゃんち、行ってみようよ」
大地さんの言葉は予想外過ぎて、何も返すことができなくて顔を見る。
「俺も気になる」
「行っても別に何にもないと思います」
「それでもいいよ」
そう言った後、返事を待つように黙っているけれど、私も答える気になれなくて黙った。
すると大地さんは、自信ありげに笑って続けた。
「行くまで帰さないって言ったらどうする?」
「駅までぐらい一人でも帰れます」
「駅のロッカーキーを持ってるのは俺だって覚えてる?」
意外とずるい、この人。ロッカーに教科書全部入ってる。
「行く?」
勝ち誇ったように聞かれて、悔しいけど答える。
「行きます」
選択肢なんかなくしておいて、最後は自分で決めたって責任を取らせる。最初に誘った時もそう。
「よし。とりあえず腹減ったな」
大地さんは私を説き伏せて満足した様子だ。
「コンビニ行って何か買いますか?」
「朝だと思ってなめてても無駄だよ。今度こそ指食われるよ」
言いながらも、少し遠くに見えるコンビニのあかりに向かって歩いて行く。夜明けの浜は、遠くにサーフィンの人が歩いているだけで、とても静かだ。