潮風の香りに、君を思い出せ。
よく考えたら財布も持ってない私に、大地さんが色々買ってくれた。今度こそトンビに狙われないように、寄り添うようにこそこそと朝ごはんを食べた。
そんな状況でも、海辺の朝ごはんは楽しい。
昨日のことは何も言わなかった大地さんは、普通に優しい。
大人と言うのは、こうやって都合の悪いことは何もなかったように流すものなのかもしれない。大人になりきってない私は、もやもやするけど。
私の気持ちがわかっちゃってて、婚約してることは知らないと思ってて、傷つけないようにうまくやろうとしてるのかもしれない。そういうの得意じゃなさそうなのに。
さっき手をつないだのはなんでなのと考えても、とにかくこの人の距離感は近すぎるのでわからない。
きっと嫌いじゃないんだろう、私のこと。思ったほど妹みたいなわけでもないんだろう。思わずキスしちゃうくらいには、気に入ってくれたんだろう。
だけど、ナナさんがいるんだもん。
結婚前にちょっと気持ちが揺れるとかよく言うでしょ。そういうやつなのかもしれない。ずるいなぁ。