潮風の香りに、君を思い出せ。
急に賑やかになったような気がして、目を開けた。

大地さんの家のリビング。でも、ソファに寝かされていて、身体にタオルケットがかかっていた。

大地さんが香世子さんと話している声が聞こえる。

やだ、あのまま寝ちゃったんだ。

がばっと起きたら「おはよう七海ちゃん」と香世子さんがにっこり挨拶してくれた。え、もう一人いる。「こんにちは、大地の父です」とダイニングの椅子からあいさつされた。



「すみません、こんなところで寝てしまって、あの、春日七海です。サークルの後輩です!」

立ち上がってお辞儀をしながらも、顔から火が出そうだ。人のうちのリビングで、おそらく床で寝込んでしまったってことでしょ?

「びっくりしたわよ、帰ってきたら、あろうことか大地がソファで七海ちゃんが床で寝てるんだもん。ほんとどうしようもないね、このバカ息子」

大地さんは完全に立場をなくしたようで、何も言わない。



「ごめん」

近づいてきて、私の耳元でこそっと言った。

「身体痛くなったりしてない?」

「大丈夫です。今何時ですか?」

「十時前。母さん帰ってきて起こされて、七海ちゃんまだ眠ってたからソファで寝かせた。親父が帰ってきたのは今だから」

この状況がいたたまれない私にさすがに気づいたのか、自分が居心地悪いのか、大地さんはすぐに私を促した。

「車あるから、行ってみようか」

「はい」

「じゃ、小湊行ってくるから」

お父さんから車のキーを受け取りながら大地さんが言う。お父さんはにやっと笑った。

「寝ぼけるなよ、大地」

「もう起きてるって」

「起こしちゃってすみませんね、七海ちゃん」

私にも顔を向けて言ってくれる。

「いえ、あの、ほんとにすみません。おじゃましました」

また顔が熱くなる。もうほんと、こんな風に対面するってどういうことなの。


玄関に置きっぱなしになっていたバッグを持つ。

黒いビーチサンダルを履いて大地さんが出て行ってから、私は自分の靴下とスニーカーを履いた。

ピンクのビーチサンダルは、靴箱の下のスペースに置いていく。持って帰る必要もないし、梨香ちゃんが使うかもしれない。それとも、もしかしたらナナさんが。

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