潮風の香りに、君を思い出せ。

結局寄ってくれるかどうかの返事はもらえないまま、しばらく車を走らせていく。

どうしてもおばあちゃんちに行かせたいって思っているのだろうか。

どうして大地さんがこだわるのかよくわからないし、それに私、別に逃げる気はないのに。先にあかりさんのところに行くのに、何か問題あるのって不思議に思う。

地図を見ていないからよくわからないけれど、もうすぐかと思って道路の右手を見る。昨日は海沿いから来なかったし、帰りのバスの中でもぼんやりしていたし、お店の場所は全然わからなかった。

大地さんを見ていたわけじゃないのに、運転しながらこちらに向けた目と一瞬視線がぶつかった。

「昨日のこと、怒ってる?」

さっきとは違う、私の様子を伺うような声で聞く。

「俺あのまま出てっちゃったし。ごめん」

「怒ってなんかないです」

このタイミングで急に昨日の話になると思っていなくて、他になんて返していいのかわからない。なかったことにしたんじゃないの? 

何も言わなかったのは私が怒ってると思ってたからなのかと思うと、的外れにもほどがあって呆れる。なんにもなかったように接しておいて、やっぱり無神経だ。

これ以上何を言いたいのか聞く気になれなくて窓の外を見た。

< 93 / 155 >

この作品をシェア

pagetop