潮風の香りに、君を思い出せ。
私が何も言うつもりがないとわかったようで、もう一度言われる。
「ごめん。あかりにも最悪って言われた」
「あかりさんに話したんですか?」
振り返りながら、自分でも驚くようなきつい声になった。
「最低……」
つぶやいたはずだったのに、また低くて怖い声が出た。
でもほんとに最低。キスしたなんて他の女の人に言うなんて、しかもあかりさんになんて。勢いでキスして後悔してるとか相談したんだろう。
大地さんは、さすがに何も言えないみたいにまた黙り込んだ。
「あかりさんとは何もないんですか」
もうこうなったら聞いてしまう覚悟を決めた。
「あかり? 何もって?」
予想外だったようで、驚いた声で言いながら私を見た。運転中に危ない。
「もしかして、俺があかりと付き合ってるって思ってた? 俺そこまで最低じゃないよ」
声がちょっと笑いを含んでいて、頭に来る。
「近いと思いますけど」
「ごめん。本当にそんなつもりで連れてきたわけじゃないし、相手がいるのに悪かったとは思ってる。俺は後悔はしてないけど」
大地さんは開き直ったように言った。後悔してなかったらなんなの。
「大丈夫です。ただの勢いだって私、わかってますから」
「……そういうつもり?」
じゃあ大地さんはどういうつもりなの。なにその傷ついたみたいな声。