潮風の香りに、君を思い出せ。
「昨日あかりさんのお店で話してるの聞いちゃいました。だから結婚するのもわかってたから大丈夫です。どうせ相手にもされてないしって思ってたのに、そうでもないって思ってもらえてそれだけで十分です」
怒りにまかせて、早口で一気に言った。昨日の車内の再現みたいに、また私が一人で子どもみたいに怒っている。
『彼氏がいるから私だってそんなつもりじゃなかった』って明るく言うはずだったのに、結局本音になっている。
大地さんの言い方が悪いんだよ。後悔してないなんて、そんな言い方ずるい。私だって後悔なんてしてないけど、でもダメなんだからなんでもないようにしようと頑張ってるのに。
婚約してるくせに、大人のくせに、最低。
「ちょっと待って。全然わからない。あかりと話してたってなに?」
本当にわからないのか、慌てた声で大地さんが聞いてくる。
「車に乗る前に。結婚するって。ちゃんと話した方がいいって。私それで、大地さんがあかりさんと浮気かなとか思っちゃって」
「は? なにをどう聞いたらそういう。浮気してたのはナナの方っていうか、乗り換えたってのが本音なんだろうけど」
え? 乗り換えた?
「全然俺たち話が噛み合ってないよね。ちょっと待って、停める」
大地さんは私を黙らせると、少し走ったところの道端にあった駐車場に車を停めた。