潮風の香りに、君を思い出せ。
海のほうに向かって前向き駐車にしてサイドブレーキを入れてから、大地さんはシートベルトも外して私に身体ごと向き直った。
「あかりが何を言ってたって?」
「ナナさんと結婚するって。でも話さなきゃいけないことがあるって」
「俺がナナと結婚するって意味で言ってる?」
答えなかったら、大地さんは重ねて聞いてきた。
「俺、ナナと別れたって言わなかった?」
別れた?
驚きすぎて声も出ないで大地さんを見た。言い逃れで嘘ついてるんじゃないよね? 結婚するって確かに聞いたのに。
「別の人とだよ、ナナは俺も知ってる先輩と結婚するって話」
なにも言えない私を見て、大地さんも驚いた様子だった。一瞬の間の後、また聞かれる。
「ナナがいるのに最低ってこと?」
わけがわからなくて、私は頷くこともできない。大地さんが怪訝な表情で続ける。
「いなかったら?」
「だって、だったらなんで相手がいるからって」
「七海ちゃんにだよ、彼氏いるんでしょ」
眉をあげて呆れような声が返ってきた。大地さんが気にしてたのは、私のことなの?
「私は、いるっていうか、いないっていうか」
「うまくいってないってこと?」
「多分もう終わってるってことです。会ってないし、連絡もないし、他の女の子といるの見たって友達に聞いたし」
言うつもりのなかった自然消滅のことを、しどろもどろにしゃべっている。
「どのくらい?」
「最後に会ったのは春休み」
何故か怪訝そうに聞かれるままに、本当のことを答える。
「そういうことだってあるでしょ」
「ないですよ、そんなの」
大地さんはそんなのあるの?長年付き合ってるような人にはあるかもしれないけど、1か月以上も連絡なしなんて私には信じられない。