潮風の香りに、君を思い出せ。
「そういう状態で他のやつと付き合ってもいいの?」
静かに、でもとがめるように聞かれる。おかしい。大地さんが最低って話のはずだったのに、そんなこと聞かれても困る。
「彼氏がやり直したいって言ってきたらどうする?」
「……他に好きな人ができたって言います」
「それって俺?」
「……他に誰がいるんですか」
成り行きで、なぜか問い詰められている。また私にはっきり言わせようとしてる。逃げ道をなくすくせに、最後は責任取らせるのずるいよ。
大地さんはどう思ってるの、私のこと。期待しすぎちゃいけないと思いつつやっぱり期待して、じっと顔を見る。
大地さんが困ったように顔をしかめて、大きくため息をついた。
「なんだよ、俺昨日すごい悩んで眠れなかったのに」
「大地さんが逃げちゃったんじゃないですか!」
「だよな、ごめん。だからダメなんだよなぁ俺って」
ハンドルの上に手を置いてうつぶせになってうなだれた。
間違えて触ったらしく、プーッと派手にクラクションが鳴って、大地さんがびくっと起き上がった。
飛び上がったみたいに見えておかしくて、くくっと笑い声が出た。緊張してた反動か、そのままスイッチが入ったみたいに私はまた笑いが止まらなくなった。
大地さんも笑い始めたところで目が合って、昨日波の中で転んだときみたいにおなかを抱えてしばらく笑い転げた。
やっと立ち直って起き上がり息を整えようとしたら、いつのまにか大地さんがすぐそばに近づいていた。驚いて身体を引くと、そのままシートに左肩を押さえつけられる。
静かに、ゆっくり唇が重なった。手の力は強かったのに、キスは優しい。