潮風の香りに、君を思い出せ。
「あー、でもダメだ」
大地さんはガバッと急に身体を離して、私を見ないで外を向いた。
「勝手でごめん、でもやっぱりちゃんとしてから。俺も、七海ちゃんも」
顔をそむけたまま言われる。
「ちゃんとって?」
笑ったりキスしたり謝られたりもう色々ついていけなくて、私は座席に身体がはりついたまま聞いた。
両手で髪をかきあげてから、大地さんは私を見た。
「俺、ナナと話そうと思ってて。それも聞いたかもしれないけど」
「話したほうがいいってあかりさんが言うのは聞こえたけど、内容までは」
「ちゃんと別れたのこの冬で。先輩と結婚決まったってのは、こないだの連休の時に友達から聞いた。
一年以上つきあってたって言ってるらしいんだよ、先輩が。俺すっきりしなくってさ。他の相手がいるならなんで最後まで言わなかったんだよって」
大地さんが説明してくれたのは、私が思ってもみなかった話だった。隠し事があったのは、ナナさんのほうだったんだ。口調でも、全然納得がいっていないのがわかる。
「今さらどうでもいいって気もしてるんだけど。相手がいても関係ないっていう先輩の気持ちもわかんなくないし、今は」
窓の外を見て話しながら、ちょっと私を横目で見て、また外を見る。
「ただナナが、変な勢いで決めたんじゃなければそれでいいけど、一度話したいと思ってる」
別れてても心配なんだ。優しいのか、未練があるのか。
ずっと付き合ってたのに急に他の人と結婚というのは、別れた後と言ってもショックなものなんだろう。
勢いだけだったら、思い直して戻ることだってあるのかもしれない。そういうことなんだろう。