花と光と奏で
「お前今朝のこと聞いた?」
「聞いた聞いた。ていうか、俺その場にいたんだよね。
マジ、ヤバかったって」
「マジかよ。こっちじゃ見かけることもなかなか無いのに…」
「だよなぁ。中等部のヤツらが羨ましすぎる」
「俺らからしたらお前も含まれてるけど?」
仙ちゃんと話し終えて、教室に戻ってきた俺の耳に届いてきたクラスメート達の会話。
「普段は歩きじゃないんだろ?たまに通学途中で見かけたって聞くけど……」
「その“たまに”が今日かよ」
「しかも、登校後にそのまま中央棟へ来てたらしいじゃん」
ハァ………とそこにいるヤツらの盛大な溜息……
"何の話してんだ?"
そういえば、朝からざわついてる気がしないでもない。
そんなことを考えながら、横目にそいつらの脇を抜けて自分の席まで戻ると、昼飯を食べなからスマホをいじる七聖が俺に気づいて見上げてきた。
「七聖……“ながら食い”やめろって」
「食ってねぇし。飲んでんだよ」
そう言う七聖の手に握られているのは、いわゆる栄養補助食品と呼ばれるゼリータイプのものだった。
「まぁどっちでもいいけど」
俺はドカッと椅子に座り、今買ってきた無糖のパックコーヒーを2本机の上に置いた。
その1本を手に取り、ストローを突き刺して自分の口に運ぶ。
苦味がすぐに口の中へ広がる。
目が覚めるような感覚に、さっき仙ちゃんが最後につぶやいた言葉を思い起こした。
“マジになるお前”
どういう意味で言ったのかさっばりわからない……
「で?」
心ここにあらずだった俺は、その声に引き戻され、その声の主を見る。
七聖は相変わらずスマホへと視線を落としたままながらも、意味ありげな口調で俺に聞いてきた。
「七聖、」
「ん?」
「お前女出来たの?」
俺は問われたことには答えずに、ふと思ったことを口にした。
「は?何、急に」
俺の言ったことが意外だったのか、スマホから視線を上げて顔をこちらに向けてきた。
「今日ずっといじってんじゃん」
「そういうことには気づくんだ?」
俺が普段あまり周りへ関心を示さないことを言ってるんだろうけど…
「いや、だってあからさまだし。朝からずっとじゃね?」
今朝からの七聖の様子を思い出し、それでも思ったことをまた口に出した。
「そんなんじゃないよ」
そう言いながら七聖の目元がゆるめられた表情に驚いた。
"こいつのこんな顔…初めて見たかも…"
わずかに上げられた口角と瞳の色は優しげで、それは誰かに対してのことだということを明瞭にしていた。
とても大事にしてるんだろう。それがわかることまで伝えてきている。
いつもポーカーフェイスで飄々としているのに、こんな表情をさせる相手がいるなんて。
新たな一面に、俺まで笑みになる。
「七聖がそんな顔をするなんてな。すげぇな、その女」
女と決めつけてかかる俺に、七聖は我に返ったのか、いつもの顔に戻った。
「俺のことはいいんだよ」
横向きに座っていた七聖が椅子を跨いで俺へと向き直る。
未だ机の上に置かれたままだったパックコーヒーを手に取ると、
「サンキュ」
と言って、当たり前のように飲み始めた。
その様子が付き合いの長さを感じさせて、思わず声を立てて俺は笑った。
「ハハッ」
「え?俺んじゃないの?」
「いや、そうだけど」
「じゃあ何」
キョトンとしていた七聖が訝しげな顔に変わる。
「七聖の当たり前の行動がおかしくてさ。長年連れ添った夫婦みてぇ」
「………」
そんなことを言われるとは思っていなかったのか、唖然としてマジマジと俺を見てくる。
数秒目を合わせたあと、口元に笑みを浮かべ伏せられた瞼。
「フッ 節操のないヤツが相手とかムリ」
軽く鼻で笑われ、あしらわれた。
「七聖が相手だと、俺マジメになるけど?」
「バーカ。言ってろ」
クククッと肩を震わせて笑い合った。
こんな関係が俺はけっこう気に入っていて、心地いい。
長い付き合いといってもまだ5年目。
七聖のまだあるであろう隠された他の一面を暴きたくなってきた。
ブーッ ブーッ
その時バイブに揺れた七聖のスマホ。
"メールか?"
スマホを手に取り、画面を確認した七聖の瞳がさっき見せていた色に変わった。
一瞬でこの男からそれを引き出せる相手に当然興味も湧くわけで…
「その女に会ってみたいんだけど?」
俺は七聖のスマホを指差して言ってみた。
「断る」
"即答かよ。…つか、やっぱり女じゃん"
「じゃあ、見る…
「ムリ」
俺の言葉を遮り、またも即答した七聖。
「何だよ。お前そんな秘密主義だった?」
「……………」
"何で黙んの?え?また新たな発見?"
いつもは俺の無茶ぶりなことにも余裕で対応するのに…
「はい。俺のことは終わり」
七聖の態度に呆気にとられていると、七聖はその会話を強制終了させた。
「聞いた聞いた。ていうか、俺その場にいたんだよね。
マジ、ヤバかったって」
「マジかよ。こっちじゃ見かけることもなかなか無いのに…」
「だよなぁ。中等部のヤツらが羨ましすぎる」
「俺らからしたらお前も含まれてるけど?」
仙ちゃんと話し終えて、教室に戻ってきた俺の耳に届いてきたクラスメート達の会話。
「普段は歩きじゃないんだろ?たまに通学途中で見かけたって聞くけど……」
「その“たまに”が今日かよ」
「しかも、登校後にそのまま中央棟へ来てたらしいじゃん」
ハァ………とそこにいるヤツらの盛大な溜息……
"何の話してんだ?"
そういえば、朝からざわついてる気がしないでもない。
そんなことを考えながら、横目にそいつらの脇を抜けて自分の席まで戻ると、昼飯を食べなからスマホをいじる七聖が俺に気づいて見上げてきた。
「七聖……“ながら食い”やめろって」
「食ってねぇし。飲んでんだよ」
そう言う七聖の手に握られているのは、いわゆる栄養補助食品と呼ばれるゼリータイプのものだった。
「まぁどっちでもいいけど」
俺はドカッと椅子に座り、今買ってきた無糖のパックコーヒーを2本机の上に置いた。
その1本を手に取り、ストローを突き刺して自分の口に運ぶ。
苦味がすぐに口の中へ広がる。
目が覚めるような感覚に、さっき仙ちゃんが最後につぶやいた言葉を思い起こした。
“マジになるお前”
どういう意味で言ったのかさっばりわからない……
「で?」
心ここにあらずだった俺は、その声に引き戻され、その声の主を見る。
七聖は相変わらずスマホへと視線を落としたままながらも、意味ありげな口調で俺に聞いてきた。
「七聖、」
「ん?」
「お前女出来たの?」
俺は問われたことには答えずに、ふと思ったことを口にした。
「は?何、急に」
俺の言ったことが意外だったのか、スマホから視線を上げて顔をこちらに向けてきた。
「今日ずっといじってんじゃん」
「そういうことには気づくんだ?」
俺が普段あまり周りへ関心を示さないことを言ってるんだろうけど…
「いや、だってあからさまだし。朝からずっとじゃね?」
今朝からの七聖の様子を思い出し、それでも思ったことをまた口に出した。
「そんなんじゃないよ」
そう言いながら七聖の目元がゆるめられた表情に驚いた。
"こいつのこんな顔…初めて見たかも…"
わずかに上げられた口角と瞳の色は優しげで、それは誰かに対してのことだということを明瞭にしていた。
とても大事にしてるんだろう。それがわかることまで伝えてきている。
いつもポーカーフェイスで飄々としているのに、こんな表情をさせる相手がいるなんて。
新たな一面に、俺まで笑みになる。
「七聖がそんな顔をするなんてな。すげぇな、その女」
女と決めつけてかかる俺に、七聖は我に返ったのか、いつもの顔に戻った。
「俺のことはいいんだよ」
横向きに座っていた七聖が椅子を跨いで俺へと向き直る。
未だ机の上に置かれたままだったパックコーヒーを手に取ると、
「サンキュ」
と言って、当たり前のように飲み始めた。
その様子が付き合いの長さを感じさせて、思わず声を立てて俺は笑った。
「ハハッ」
「え?俺んじゃないの?」
「いや、そうだけど」
「じゃあ何」
キョトンとしていた七聖が訝しげな顔に変わる。
「七聖の当たり前の行動がおかしくてさ。長年連れ添った夫婦みてぇ」
「………」
そんなことを言われるとは思っていなかったのか、唖然としてマジマジと俺を見てくる。
数秒目を合わせたあと、口元に笑みを浮かべ伏せられた瞼。
「フッ 節操のないヤツが相手とかムリ」
軽く鼻で笑われ、あしらわれた。
「七聖が相手だと、俺マジメになるけど?」
「バーカ。言ってろ」
クククッと肩を震わせて笑い合った。
こんな関係が俺はけっこう気に入っていて、心地いい。
長い付き合いといってもまだ5年目。
七聖のまだあるであろう隠された他の一面を暴きたくなってきた。
ブーッ ブーッ
その時バイブに揺れた七聖のスマホ。
"メールか?"
スマホを手に取り、画面を確認した七聖の瞳がさっき見せていた色に変わった。
一瞬でこの男からそれを引き出せる相手に当然興味も湧くわけで…
「その女に会ってみたいんだけど?」
俺は七聖のスマホを指差して言ってみた。
「断る」
"即答かよ。…つか、やっぱり女じゃん"
「じゃあ、見る…
「ムリ」
俺の言葉を遮り、またも即答した七聖。
「何だよ。お前そんな秘密主義だった?」
「……………」
"何で黙んの?え?また新たな発見?"
いつもは俺の無茶ぶりなことにも余裕で対応するのに…
「はい。俺のことは終わり」
七聖の態度に呆気にとられていると、七聖はその会話を強制終了させた。