花と光と奏で


「紫音と出会えたことが俺の幸せ」


閉ざされていた場所に、再び射し込んできた光。

自分自身でも、どうすることも出来なかった強固なそこへあたたかく届き、響いた音(声)。


「好きになるのに時間なんて必要なくて、
屋上で見た時から俺の心をとらえて離さなかった存在に、
もうずっと前から紫音を探していたんだと思った。

だからこそ、紫音は俺にとって、奇跡そのものなんだよ」


その言葉で、凍っていたものがいくつもの小さな塊と形を変えて溶け出し、私の瞳からそれが再び溢れ出した。

私を優しく見つめたままの先輩の瞳の色は、


切なさと愛しさ。


先輩はもう一度、自分の胸の中へと私を引き寄せた。



「愛してるよ、紫音」

“愛してるわ、紫音”



耳元で囁いた先輩の言葉が、

私へ伝え続けてくれていたママの想いと重なって、記憶を呼び起こす。


“あなたを愛してる”

“いつもそばにいるから。あなたの奏でる愛の音にも寄り添っているから”

“あなたとめぐり会えた奇跡に、心から感謝しているわ”

“あなたへの想いを忘れないで”

“あなたを愛してるわ、紫音”


苦しくて……苦しくて一緒に凍らせていた私への想い。

大好きなママがくれた……最後の言葉。



"マ…マ…………ママ…………………"


『………ママ……私…ごめ……』

言葉が詰まり、泣きじゃくる私……


「大丈夫だよ。紫音の想いは届いてたから」


穏やかな優しい音(声)。


「ごめんな……本当なら紫音から聞くべきことを、七聖から聞き出した」

< 105 / 107 >

この作品をシェア

pagetop