花と光と奏で
─中央棟図書室─
そこに現れた俺に、中にいた生徒達が少しざわついたのがわかる。
今日半日向けられていた二つの意味の視線がここでも俺へと向かってくるけど、この場所なだけに、話しかけてくるヤツは一人もいない。
"静かさを望むときはここもありだったな"
と、つい2日前のことを思い出し、苦笑が漏れた。
そのまま窓辺近くの席へと向かう。
途中、辺りを見渡すけど、どうやら彼女はまだ来ていないらしい。
ふと窓辺の手前に見つけた見慣れた姿。
「七聖……」
俺のつぶやいた声に気づいた七聖は、手元にあった本から視線を上げた。
「あれ…めずらしいじゃん」
「…………」
七聖のその言葉に含みを感じた。
「煌暉がここへ来るってことは…俺からすれば二つの理由が思いつくんだけど?」
からかうような口調でそう言い放つ七聖。
「一つめは…」
いきなり何を言い出すんだ。
「ちょっ、タンマ。それ以上言うな」
予想の出来たそれに、俺は咄嗟に制止をかける。
俺の事情を知る七聖の発言に焦るが、
「あれ?ダメ?じゃあ二つめ」
「だから。マジでヤメてくれ」
「そぉ?二つめ…あそこにいる彼女が理由?」
そう言った七聖の言葉に入口へと振り返ると、そこから中を覗くようにしている彼女の姿が目に入った。
トクンッ
瞬間、高鳴った鼓動。
あくまでも昨日の時点では“予定”と言っていた彼女が今日現れる保証など無かったから、“会えた”という事実に嬉しさがこみ上がってきた。
自然と口角が上がり、頬がゆるんでいたんだろう。
「煌暉って、実はデレ男?そんな顔、初めて見るんだけど。
でも紫音にしか引き出せなかった表情(かお)ってことは…かなり本気なんだ」
七聖の的確な指摘に慌てた俺は、口元を手のひらで覆った。
「遅いけどな」
クツクツ笑う七聖。
入口付近で中へ入ろうか躊躇している彼女の姿に、彼女をとらえた周りの生徒達の浮わついた空気。と同時に俺へと移されるたくさんの視線。
"これはどうしたものか…"
少なくはない生徒の数。
この後のことが簡単に予想出来て、俺までもが動くことに躊躇していると…
「行かないの?帰っちゃいそうだけど?」
その七聖の言葉に反応した俺は、自然と足を踏み出した。
まっすぐ彼女に向かう俺に視線が刺さってくる。
"明日はどんな噂になることやら…"
そんなことを考えながら彼女の前へ立った。
「月瀬さん」
名前を呼ばれてハッとした表情を見せながらその瞳が俺を見上げてくる。
グレーがかった瞳に俺が映し出されて、
『一先輩…』
甘い声が俺の名前を呼んだ。
「入らねぇの?調べたいことがあるんだろ?」
『あ…はい』
彼女の返事を聞いて中へと促した俺は、そのまま一緒に少し奥まった席へとつく。
視線を全て遮ることは出来ないけど、多少はマシだろう。
この際、そんな細かいことは無視だ。
それを気にする時間がもったいなかった。
「調べんのに、何が必要?」
鞄から紙束が入ったクリアファイルと筆記具を出していた彼女に俺は尋ねた。
『えっと…仏和辞書と和仏辞書です』
「仏語?」
『はい。…あ、書棚の場所はわかってるので、ちょっと取ってきますね』
そう言って立ち上がった彼女。
それにならうように、俺も立ち上がる。
『一人で大丈夫ですよ?』
首を傾げて俺を見上げる。
「ん。いいから」
『ありがとうございます』
笑顔を向けられた。
立て続けに見せられた彼女の仕草と表情に、俺の胸の高鳴りが止まらない。
"可愛すぎる"
**
そこに現れた俺に、中にいた生徒達が少しざわついたのがわかる。
今日半日向けられていた二つの意味の視線がここでも俺へと向かってくるけど、この場所なだけに、話しかけてくるヤツは一人もいない。
"静かさを望むときはここもありだったな"
と、つい2日前のことを思い出し、苦笑が漏れた。
そのまま窓辺近くの席へと向かう。
途中、辺りを見渡すけど、どうやら彼女はまだ来ていないらしい。
ふと窓辺の手前に見つけた見慣れた姿。
「七聖……」
俺のつぶやいた声に気づいた七聖は、手元にあった本から視線を上げた。
「あれ…めずらしいじゃん」
「…………」
七聖のその言葉に含みを感じた。
「煌暉がここへ来るってことは…俺からすれば二つの理由が思いつくんだけど?」
からかうような口調でそう言い放つ七聖。
「一つめは…」
いきなり何を言い出すんだ。
「ちょっ、タンマ。それ以上言うな」
予想の出来たそれに、俺は咄嗟に制止をかける。
俺の事情を知る七聖の発言に焦るが、
「あれ?ダメ?じゃあ二つめ」
「だから。マジでヤメてくれ」
「そぉ?二つめ…あそこにいる彼女が理由?」
そう言った七聖の言葉に入口へと振り返ると、そこから中を覗くようにしている彼女の姿が目に入った。
トクンッ
瞬間、高鳴った鼓動。
あくまでも昨日の時点では“予定”と言っていた彼女が今日現れる保証など無かったから、“会えた”という事実に嬉しさがこみ上がってきた。
自然と口角が上がり、頬がゆるんでいたんだろう。
「煌暉って、実はデレ男?そんな顔、初めて見るんだけど。
でも紫音にしか引き出せなかった表情(かお)ってことは…かなり本気なんだ」
七聖の的確な指摘に慌てた俺は、口元を手のひらで覆った。
「遅いけどな」
クツクツ笑う七聖。
入口付近で中へ入ろうか躊躇している彼女の姿に、彼女をとらえた周りの生徒達の浮わついた空気。と同時に俺へと移されるたくさんの視線。
"これはどうしたものか…"
少なくはない生徒の数。
この後のことが簡単に予想出来て、俺までもが動くことに躊躇していると…
「行かないの?帰っちゃいそうだけど?」
その七聖の言葉に反応した俺は、自然と足を踏み出した。
まっすぐ彼女に向かう俺に視線が刺さってくる。
"明日はどんな噂になることやら…"
そんなことを考えながら彼女の前へ立った。
「月瀬さん」
名前を呼ばれてハッとした表情を見せながらその瞳が俺を見上げてくる。
グレーがかった瞳に俺が映し出されて、
『一先輩…』
甘い声が俺の名前を呼んだ。
「入らねぇの?調べたいことがあるんだろ?」
『あ…はい』
彼女の返事を聞いて中へと促した俺は、そのまま一緒に少し奥まった席へとつく。
視線を全て遮ることは出来ないけど、多少はマシだろう。
この際、そんな細かいことは無視だ。
それを気にする時間がもったいなかった。
「調べんのに、何が必要?」
鞄から紙束が入ったクリアファイルと筆記具を出していた彼女に俺は尋ねた。
『えっと…仏和辞書と和仏辞書です』
「仏語?」
『はい。…あ、書棚の場所はわかってるので、ちょっと取ってきますね』
そう言って立ち上がった彼女。
それにならうように、俺も立ち上がる。
『一人で大丈夫ですよ?』
首を傾げて俺を見上げる。
「ん。いいから」
『ありがとうございます』
笑顔を向けられた。
立て続けに見せられた彼女の仕草と表情に、俺の胸の高鳴りが止まらない。
"可愛すぎる"
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