花と光と奏で
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「仏語辞書ってそれのこと?」
『はい。中等部にはこの辞書の取り扱いがないので、ここでしか調べれないんです』
彼女はそう言いながら、書棚から目当ての辞書を取り出し、また別の場所へと移る。
「あぁ、中等部は外国語の選択授業はまだないもんな」
俺は中等部の時の記憶をたどり、外国語として学んだのは英語だけだったことを思い出す。
本当に必要なものしか中等部の図書室には置いてないのかもしれない。
「ちなみに俺の外国語選択は高一の時から仏語だよ」
思わぬ共通点に、さりげなくアピール。
また違う書棚から仏語に関した本を取り出し、俺を見上げる彼女。
「持ってる辞書と同じだなと思って。解りやすいよ。それ」
彼女の手元にあるそれへ俺は視線を落とした。
『そうなんですか?持禁になってるから、一般の書店にはないのかと思ってました』
これはまさかのチャンス到来?
「その辞書に限らず、ここの本は全て持禁対象だよ。何でか知んねぇけど…
それ、置いてある書店は限られてるし、帰りにでも一緒に見に行く?」
"一緒に"を強調して少し強引に俺は聞いてみた。
『え……?』
少し困惑気味の彼女。
"いきなりすぎたか?"
『…帰りはちょっとダメで』
「そうだよな。いきなりだし…ごめんな?」
『そうではなくて……帰りは向が来るので』
彼女の放った言葉に否定したい存在の可能性が脳裏に浮かんだ。
「迎えって…彼氏?」
そう聞いた俺は自分の目元を細めるのがわかり、鋭い視線にならないよう意識する。同時に嫉妬心が湧き、ツキンッと痛みが胸を刺した。
驚いた顔の彼女。
視線は絡まったまま。
探るような感じになっていないだろうか…?
『彼氏はいませんよ。
迎えと言っても、父付きの運転手の方です』
フッと笑みをこぼした彼女。
『彼氏と学校の帰りに寄り道とか憧れるんですけどね』
俺は沈みかけていた気持ちにその存在の否定を聞いて心底安堵する。
沸々と欲が芽生え、
"それになりたいんだけど…"
と、心の中でつぶやいた。
「お父さん付きって…月瀬さんってお嬢様?」
『お嬢様?フフッ どうですかね。父の愛情は痛いぐらいですけどね?』
謙遜した彼女はクスクスと笑っている。
父親のことでも思い出しているのだろうか…
「それって毎日?」
『迎えのことですか?…うーん。毎日ではないです。昨日みたいに断る時もあるので』
「そっか。じゃあ俺が誘っても問題なしかな?」
『へ?』
俺の言葉にキョトンとした彼女。
「学校帰りの“寄り道”?」
続けた言葉に、あきらかに驚いた顔になった。
『私ですか?』
「そう。月瀬さんに言ってるんだよ。ダメかな?」
笑みを向けながらダメ押しする俺に、彼女の頬が染まった。
『ダメ…ではない…です』
ポツリともらした彼女の返答に、舞い上がる気持ちを押さえて、
「じゃ、約束な」
と今度は確実なつながりを手に入れた。
「仏語辞書ってそれのこと?」
『はい。中等部にはこの辞書の取り扱いがないので、ここでしか調べれないんです』
彼女はそう言いながら、書棚から目当ての辞書を取り出し、また別の場所へと移る。
「あぁ、中等部は外国語の選択授業はまだないもんな」
俺は中等部の時の記憶をたどり、外国語として学んだのは英語だけだったことを思い出す。
本当に必要なものしか中等部の図書室には置いてないのかもしれない。
「ちなみに俺の外国語選択は高一の時から仏語だよ」
思わぬ共通点に、さりげなくアピール。
また違う書棚から仏語に関した本を取り出し、俺を見上げる彼女。
「持ってる辞書と同じだなと思って。解りやすいよ。それ」
彼女の手元にあるそれへ俺は視線を落とした。
『そうなんですか?持禁になってるから、一般の書店にはないのかと思ってました』
これはまさかのチャンス到来?
「その辞書に限らず、ここの本は全て持禁対象だよ。何でか知んねぇけど…
それ、置いてある書店は限られてるし、帰りにでも一緒に見に行く?」
"一緒に"を強調して少し強引に俺は聞いてみた。
『え……?』
少し困惑気味の彼女。
"いきなりすぎたか?"
『…帰りはちょっとダメで』
「そうだよな。いきなりだし…ごめんな?」
『そうではなくて……帰りは向が来るので』
彼女の放った言葉に否定したい存在の可能性が脳裏に浮かんだ。
「迎えって…彼氏?」
そう聞いた俺は自分の目元を細めるのがわかり、鋭い視線にならないよう意識する。同時に嫉妬心が湧き、ツキンッと痛みが胸を刺した。
驚いた顔の彼女。
視線は絡まったまま。
探るような感じになっていないだろうか…?
『彼氏はいませんよ。
迎えと言っても、父付きの運転手の方です』
フッと笑みをこぼした彼女。
『彼氏と学校の帰りに寄り道とか憧れるんですけどね』
俺は沈みかけていた気持ちにその存在の否定を聞いて心底安堵する。
沸々と欲が芽生え、
"それになりたいんだけど…"
と、心の中でつぶやいた。
「お父さん付きって…月瀬さんってお嬢様?」
『お嬢様?フフッ どうですかね。父の愛情は痛いぐらいですけどね?』
謙遜した彼女はクスクスと笑っている。
父親のことでも思い出しているのだろうか…
「それって毎日?」
『迎えのことですか?…うーん。毎日ではないです。昨日みたいに断る時もあるので』
「そっか。じゃあ俺が誘っても問題なしかな?」
『へ?』
俺の言葉にキョトンとした彼女。
「学校帰りの“寄り道”?」
続けた言葉に、あきらかに驚いた顔になった。
『私ですか?』
「そう。月瀬さんに言ってるんだよ。ダメかな?」
笑みを向けながらダメ押しする俺に、彼女の頬が染まった。
『ダメ…ではない…です』
ポツリともらした彼女の返答に、舞い上がる気持ちを押さえて、
「じゃ、約束な」
と今度は確実なつながりを手に入れた。