花と光と奏で
そのあと、辞書を抱えて席へ戻ると、彼女はさっそく何かを始める。
覗くようにして見てみれば、日本語の歌詞だろうか、所々マーキングがされた仏語のスペル。
「仏語に訳してんだ?」
パラパラと辞書をめくっていた手を止めて、視線を俺に向けた彼女は、
『はい。大好きな人達にどうしても仏語で伝えたくて』
「仏語ってことはフランス人?」
『はい。曾祖父母がフランス人なんです。でも住んでるのはずっとイギリスだから、私はフランス語はあまり話せなくて。
だから勉強しないと』
「え?じゃあ月瀬さんて…」
『フフッ クォーターですね』
「そうなんだ」
思わぬことに彼女の個人的なことを知ることが出来た喜びと同時に、その事実に少し驚く。
"てことは…イトコって言ってた七聖もクォーター?
そういえば、あいつの母さんて…外人顔だったかも…"
ふとそんなことを思い出し、七聖が座っていた席の方を見れば、まだそこには本を静かに読みふける七聖の横顔があり、いつもより人を寄せ付けないオーラに拍車がかかっているのが目に入った。
視線を感じたのか、フッと顔を上げた七聖がこちらへと振り向き、俺と目が合った。
口元に笑みを浮かべ、立ち上がったかと思ったら、そのまま俺達の方へ歩いてくる。
片手には読んでいたであろう本があり、反対側の手には鞄を下げていることから、もう帰るのかもしれない。
「煌暉」
俺達の前へ来た七聖が俺の名前を呼んだ。
その声に、隣で視線を落としていた彼女が顔を上げた気配を感じる。
七聖が俺から彼女へと視線を移したのを見て、それを追うように俺も彼女の方を見た。
少し驚いた彼女だったけど、フッと表情を和らげて七聖を見つめる。
七聖もまた同じ表情で彼女を見つめていた。
無言のやり取りに、当然かのように湧き上がった嫉妬。
顔には出していないつもりだったけど、七聖は俺の極わずかな表情の変化を読み取り、至極楽しげにクツクツと笑った。
「また明日」
七聖はそれだけ言うと、その場から離れ、図書室を後にした。
"あいつ……わざと見せつけやがったな…"
俺がそのことにイラッとしていると、
『一先輩、七聖くんとお友達なんですね』
"七聖くん!?"
イトコなんだから当然であろうその呼び方に対して、さらに嫉妬心が加速する。
「七聖と仲良いの?」
つい強い口調になった。
『え?』
彼女の声に微かに不安気な音が混じったのがわかって、
「悪い…ちょっとした嫉妬…」
『嫉妬?ですか?………』
"このコってマジで鈍い?
さっきからさりげなくアピールしてるのに、気づいてないみたいだし"
七聖の言っていた“超鈍ちゃん”の言葉が過る。
「んー、いや……七聖とイトコなんだってな」
平静を取り戻してそう言えば、声音の変化を感じ取ったのか、ホッとしたような顔。
『七聖くんと仲良いんですね。
私との関係を一先輩には話してたんだ』
"正確に言えば、聞いたのは今日だけどな"
「仲が良いっていうか、それ以上の関係だと俺は思ってるけどね。
悪友?親友?みたいな」
『素敵ですね』
まるで自分のことのように嬉しそうな反応をする彼女。
「七聖のこと好き?」
嫉妬ではなく、そんな彼女を見てあたたかい感情が生まれてくる。
『好きですよ。兄弟姉妹のいない私にとって、本当のお兄さんみたいな存在なんです。
年令が近いこともあって、小さい頃から私を気にかけててくれて。
この学校も七聖くんが薦めてくれたんですよ。フフッ』
柔らかい表情で話す彼女に、
"七聖、グッジョブ"
と心の中で俺は親指を立てた。
覗くようにして見てみれば、日本語の歌詞だろうか、所々マーキングがされた仏語のスペル。
「仏語に訳してんだ?」
パラパラと辞書をめくっていた手を止めて、視線を俺に向けた彼女は、
『はい。大好きな人達にどうしても仏語で伝えたくて』
「仏語ってことはフランス人?」
『はい。曾祖父母がフランス人なんです。でも住んでるのはずっとイギリスだから、私はフランス語はあまり話せなくて。
だから勉強しないと』
「え?じゃあ月瀬さんて…」
『フフッ クォーターですね』
「そうなんだ」
思わぬことに彼女の個人的なことを知ることが出来た喜びと同時に、その事実に少し驚く。
"てことは…イトコって言ってた七聖もクォーター?
そういえば、あいつの母さんて…外人顔だったかも…"
ふとそんなことを思い出し、七聖が座っていた席の方を見れば、まだそこには本を静かに読みふける七聖の横顔があり、いつもより人を寄せ付けないオーラに拍車がかかっているのが目に入った。
視線を感じたのか、フッと顔を上げた七聖がこちらへと振り向き、俺と目が合った。
口元に笑みを浮かべ、立ち上がったかと思ったら、そのまま俺達の方へ歩いてくる。
片手には読んでいたであろう本があり、反対側の手には鞄を下げていることから、もう帰るのかもしれない。
「煌暉」
俺達の前へ来た七聖が俺の名前を呼んだ。
その声に、隣で視線を落としていた彼女が顔を上げた気配を感じる。
七聖が俺から彼女へと視線を移したのを見て、それを追うように俺も彼女の方を見た。
少し驚いた彼女だったけど、フッと表情を和らげて七聖を見つめる。
七聖もまた同じ表情で彼女を見つめていた。
無言のやり取りに、当然かのように湧き上がった嫉妬。
顔には出していないつもりだったけど、七聖は俺の極わずかな表情の変化を読み取り、至極楽しげにクツクツと笑った。
「また明日」
七聖はそれだけ言うと、その場から離れ、図書室を後にした。
"あいつ……わざと見せつけやがったな…"
俺がそのことにイラッとしていると、
『一先輩、七聖くんとお友達なんですね』
"七聖くん!?"
イトコなんだから当然であろうその呼び方に対して、さらに嫉妬心が加速する。
「七聖と仲良いの?」
つい強い口調になった。
『え?』
彼女の声に微かに不安気な音が混じったのがわかって、
「悪い…ちょっとした嫉妬…」
『嫉妬?ですか?………』
"このコってマジで鈍い?
さっきからさりげなくアピールしてるのに、気づいてないみたいだし"
七聖の言っていた“超鈍ちゃん”の言葉が過る。
「んー、いや……七聖とイトコなんだってな」
平静を取り戻してそう言えば、声音の変化を感じ取ったのか、ホッとしたような顔。
『七聖くんと仲良いんですね。
私との関係を一先輩には話してたんだ』
"正確に言えば、聞いたのは今日だけどな"
「仲が良いっていうか、それ以上の関係だと俺は思ってるけどね。
悪友?親友?みたいな」
『素敵ですね』
まるで自分のことのように嬉しそうな反応をする彼女。
「七聖のこと好き?」
嫉妬ではなく、そんな彼女を見てあたたかい感情が生まれてくる。
『好きですよ。兄弟姉妹のいない私にとって、本当のお兄さんみたいな存在なんです。
年令が近いこともあって、小さい頃から私を気にかけててくれて。
この学校も七聖くんが薦めてくれたんですよ。フフッ』
柔らかい表情で話す彼女に、
"七聖、グッジョブ"
と心の中で俺は親指を立てた。