花と光と奏で
**


「あのさ、………話は違うんだけど…」
『?』
「突然こんなこと言って、何?って思うかもしんねぇけど…」
『はい』
「………俺、けっこう“おぼっちゃん”なんだよね」
『……………』

案の定彼女が俺の突飛な話に目を丸くする。

「俺は俺達が通う学校の創設者相続兼理事長の孫で、父親は名の知れた建築デザイナー。母親もファッションデザイナーで……
「“CYPHA(サイファ)”って雑誌知ってる?」
『……名前だけは…よくクラスのコ達が話題にしてたと…』
「そっか。うん…まぁ、母さんはそこの専属デザイナー。 そんでもって俺はその雑誌のモデルをしてる」

今まであえて自分のことを自らオープンにしたことの無い俺が、そのことを彼女にだけはカミングアウトしたくて、いきなりの話を彼女に聞かせることになった。

きっとさっきの電話がそうさせたのかもしれない。

その俺の話にポカンと口を開いた彼女。


"……やっぱ何も知らなかったか……"


「だからさ、(立場的に)……
いや、……月瀬さんは今の聞いてどう思った?」

俺は言いかけた言葉を呑み込み、俺自身疎ましくさえ思っていることを彼女がどう受け取ったか知りたかった。
俺の問いかけに彼女は我に返ったのか、

『そうですね…』

と前置きして、

『一先輩は一先輩ですよ』

俺の目をジッと見つめてハッキリとした口調でそう言った。

『立場的なことの前に、一先輩は一先輩であって、それ以外の何者でもないと私は思います。
その立場は一先輩がいるからこそついてくるものですよね。
……あれ?同じ意味かな?……ん?…』

彼女から出た言葉は、俺が今まで聞いたありきたりの聞き慣れたおべっかの言葉じゃなく、俺個人に向けられたもの。
彼女は自分が言ったことを何やら考え込んでしまったけど、それは俺の心を突き刺していた。

じわじわとそこから甘い痛みが俺の全身へ広がる。


"彼女は違う"
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