花と光と奏で
**
職員室の出入口付近で待っていてくれていた碧へと声をかける。
『お待たせ』
「早かったね。三嶋っち、何か言ってた?」
『?……何も?
ただ預かって、高等部の先生に渡しとくって』
「ふーん。
チラッと見えたけど、あれって2年生のだよね。白のライン入ってたし」
『かな?よくわかんないや』
ネクタイの色でしか、中等部か高等部かの区別をしていなかった私は、そうぼんやり答えると、
「紫音って、あんまりそういうの興味ないよね?」
『興味って?』
ハアッと溜息をこぼした碧。
「いや、だから…
さっきの忘れ物。色は濃紺でしかもネクタイ。明らか高等部の男子生徒じゃん」
『うん?』
私の気のない返事に碧が呆けた顔になる。
額に手を当てて、また溜息をつきつつ、
「えっとね、これを機会に素敵な先輩とお近づきに…なんて?」
チラッと私と視線を合わせ、悪戯っぽく笑った。
"あぁ…そういう意味ね"
クスッと私から苦笑が漏れた。
『え〜?ないない、ないよ』
私がそう言っても、
「で、イニシャルは何だったの?見た?」
何だか楽しそうな碧。
『一応ね…“K.N”だったかな』
そら覚えで私がもらしたイニシャルに、碧は少し目を見開いた後、眉根を寄せた。
"あれ?三嶋先生と同じ?"
さっきのネクタイの裏側を確認した時の先生の様子とかぶる。
私は二人の様子を目の当たりにして、さっきのはやっぱり気のせいじゃなかったんだ。と感じた。
"イニシャル……“K.N”…どんな先輩なのかな……"
ふとそんなことを思っていたら、頭の上に置かれた優しい手のひらの温もりが、
「まぁ、いいや。行こ」
と伝えてきて、続けて私の顔を覗き込むと、さっきの表情なんてやっぱり見間違いかと思わせる程の笑顔を見せた。
『うん』
そんな碧に返事をして、職員室を出たところで立ち止まったまま会話をしていた私達は、中等部の校舎へ向かって歩き出した。
数人の生徒達とすれ違う中に見えたそれぞれのタイの色。
中・高で区別されたそれは、高等部では男女共に濃紺で、中等部ではえんじ色になる。
そのタイの形式は男子はネクタイで女子はリボンタイだった。
学年・個人も区別するために、それに応じて色タイにラインが入り、イニシャルまで入っていた。
中等部の私達3年生の学年色は白色。他には黄と紺。
高等部は…今、碧が言っていた白は2年生で…あとは………いいや。
何色があるかなど気にも留めていなかった私は、記憶を辿るも思い出せないことに、考えることを放棄した。
『フフッ』
自分のいい加減さに、自嘲の笑みが漏れた。
小さな笑い声に気づいた碧が、
「どうかした?」
と、顔をこちらに向けて、少しかがんだ姿勢で私を上目づかいに見上げてくる。
『ん?いや、私って普段気にかけてないこと多いんだなぁと思って』
「何それ。今更じゃん、紫音の鈍感は」
私が自己分析していたことを伝えれば、碧からの私への評価が返ってきて、それにムウッとなった私は、
『鈍感じゃないもん』
思わず、頬を膨らませた。
「ぃやん。その顔可愛すぎる〜」
私の子供っぽい仕草にもかかわらず、碧はそう言った途端、ムギューッと本日2回目のハグ。
私の反論も虚しく、
「いいのいいの。紫音はそのままで」
と、呆気なくかわされてしまった。
そんな私達を、高等部とつながる廊下から、たくさんの視線が向けられていたことなど、私はやっぱり気づいていなかった。
職員室の出入口付近で待っていてくれていた碧へと声をかける。
『お待たせ』
「早かったね。三嶋っち、何か言ってた?」
『?……何も?
ただ預かって、高等部の先生に渡しとくって』
「ふーん。
チラッと見えたけど、あれって2年生のだよね。白のライン入ってたし」
『かな?よくわかんないや』
ネクタイの色でしか、中等部か高等部かの区別をしていなかった私は、そうぼんやり答えると、
「紫音って、あんまりそういうの興味ないよね?」
『興味って?』
ハアッと溜息をこぼした碧。
「いや、だから…
さっきの忘れ物。色は濃紺でしかもネクタイ。明らか高等部の男子生徒じゃん」
『うん?』
私の気のない返事に碧が呆けた顔になる。
額に手を当てて、また溜息をつきつつ、
「えっとね、これを機会に素敵な先輩とお近づきに…なんて?」
チラッと私と視線を合わせ、悪戯っぽく笑った。
"あぁ…そういう意味ね"
クスッと私から苦笑が漏れた。
『え〜?ないない、ないよ』
私がそう言っても、
「で、イニシャルは何だったの?見た?」
何だか楽しそうな碧。
『一応ね…“K.N”だったかな』
そら覚えで私がもらしたイニシャルに、碧は少し目を見開いた後、眉根を寄せた。
"あれ?三嶋先生と同じ?"
さっきのネクタイの裏側を確認した時の先生の様子とかぶる。
私は二人の様子を目の当たりにして、さっきのはやっぱり気のせいじゃなかったんだ。と感じた。
"イニシャル……“K.N”…どんな先輩なのかな……"
ふとそんなことを思っていたら、頭の上に置かれた優しい手のひらの温もりが、
「まぁ、いいや。行こ」
と伝えてきて、続けて私の顔を覗き込むと、さっきの表情なんてやっぱり見間違いかと思わせる程の笑顔を見せた。
『うん』
そんな碧に返事をして、職員室を出たところで立ち止まったまま会話をしていた私達は、中等部の校舎へ向かって歩き出した。
数人の生徒達とすれ違う中に見えたそれぞれのタイの色。
中・高で区別されたそれは、高等部では男女共に濃紺で、中等部ではえんじ色になる。
そのタイの形式は男子はネクタイで女子はリボンタイだった。
学年・個人も区別するために、それに応じて色タイにラインが入り、イニシャルまで入っていた。
中等部の私達3年生の学年色は白色。他には黄と紺。
高等部は…今、碧が言っていた白は2年生で…あとは………いいや。
何色があるかなど気にも留めていなかった私は、記憶を辿るも思い出せないことに、考えることを放棄した。
『フフッ』
自分のいい加減さに、自嘲の笑みが漏れた。
小さな笑い声に気づいた碧が、
「どうかした?」
と、顔をこちらに向けて、少しかがんだ姿勢で私を上目づかいに見上げてくる。
『ん?いや、私って普段気にかけてないこと多いんだなぁと思って』
「何それ。今更じゃん、紫音の鈍感は」
私が自己分析していたことを伝えれば、碧からの私への評価が返ってきて、それにムウッとなった私は、
『鈍感じゃないもん』
思わず、頬を膨らませた。
「ぃやん。その顔可愛すぎる〜」
私の子供っぽい仕草にもかかわらず、碧はそう言った途端、ムギューッと本日2回目のハグ。
私の反論も虚しく、
「いいのいいの。紫音はそのままで」
と、呆気なくかわされてしまった。
そんな私達を、高等部とつながる廊下から、たくさんの視線が向けられていたことなど、私はやっぱり気づいていなかった。