花と光と奏で
その会話の内容までは、離れた所に立っている私には当然聞こえてはこない。
だけどふざけた感じてお互いの身体を小突き合う様子は端から見ていて本当に楽しそうだった。

それをジッと見ていた私の視界に、その人達の向こうから見慣れた姿がこちらへ走ってくるのが入り、それにゆるんだ私の口元。

私を目でとらえたのか、一先輩が片手を上げて笑顔になった。


「ごめん、待たせた」
『いいえ』

私が一先輩を見上げて微笑むと、一先輩も自分の目元を細めて唇に弧を描く。
それを見てトクンッと跳ねた心の高鳴りが心地よくて、


“好き”


という感情がストンッと私の胸の中に広がる。


いつも自分をごまかしていたけど、


"やっぱり私は先輩が好きなんだ"


心が気づいていたその想いを、私は頭でも自覚した。






「仙ちゃんに捕まってた」

ふいにそう言われて、

『仙内先生ですか?』

と傾げた首。

「ん。……仕事の件で」


"あ……れ?"


『お仕事…モデルのですか?』

前に先輩から聞いていたお仕事のこと。

初めて聞いた時はモデルをしてるってことだけだったけど、一緒に放課後を過ごすようになってから、その時に何度かお仕事だった先輩がそのことを詳しく私に教えてくれた。

ファッションデザイナーのお母様から頼まれて、お小遣い稼ぎ程度にモデルを引き受けていると先輩は言っていて、

“結構いい収入になるからそれは嬉しいことなんだけど……”

と言った時は苦笑しながら最後は言葉を濁していたことを思い出した。

前にそのお仕事で先輩自身が何か思うことがあったのか、少し落ち着きが無いように私には見えたことがあったけど、その日のその時だけで、もうそれは見られていなかったのに……
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