花と光と奏で
今またそれが顕著に言葉と態度に出たような気がする。

さっき少しだけ感じた違和感が、その時の先輩と重なって見えた。

だけど、

「行こっか。歩きながら話すよ」

そう言った先輩の手が私の肩にそっと触れてきてそのまま添えてくるから…そこから私の体温が上がってきた。

そしてそれが私に別の感情をまとわせて、私は感じた違和感を言葉にすることがすぐには出来なかった。


「母さんにはいつも適当な返事しかしてなかったからさ。
カッコ悪い話だけど、仙ちゃんに泣きついてきたらしい……
月瀬さんには前に俺はバイト感覚って話しただろ?それは母さんも承知してたんだけどな。

…実は来年早々に立ち上がる仕事が新規で、それを機に俺を本格採用して専属のモデルにしたいって…」
『わぁ!凄いじゃないですか』
「でもさ……」


『……先輩……また何かあったんですか?』


先輩が歩きながらにして、待ち合わせた場所に来るのが遅くなった理由を説明してくれる。だけど、私はここでまた違和感を感じて、別の感情をまとっていたけど、今度はそれを言葉にすることが出来た。


“別の感情”


それは私へのもしかしたらの先輩からの好意で、それを感じての嬉しさが私を幸せな気持ちにさせていた。


「え?」
『言いにくいことですか?それでしたらごめんなさい』
「いや……言いにくいっつーか……」

私と先輩は歩き出したはずなのに、すぐにその歩を止めていた。

横から私を見下ろしてくる先輩の瞳には“ためらい”の色が宿っていて、私に“言おうか言うまいか”とそれが言っているように思えた。


「自分で言うと自惚れてるみたいで、月瀬さんに言うのはちょっと恥ずかしいし、情けねぇけど……」

それでも先輩は、苦笑しながらも私の肩にあった手を自分の首の後ろに移動させて話し出した。

私に触れていたのはほんのわずかな時間だったけど、その肩には確かなぬくもりが残っている。
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