花と光と奏で



「煌暉!」


私と先輩がいつもと同じように駅の方へ向かいかけた時、後ろから先輩の名前を呼ぶ声が聞こえて、それに反応した私達は二人で同時に振り返った。

そこに立っていたのは他校の制服に身を包んだ一人の女子。
私の目にその人の姿が映し出された。

「煌暉」

もう一度その人が先輩の名前を呼んだ。

そのまま近づいてきたその人は、何のためらいもなく先輩の腕に自分の腕を絡みつけた。


「ちょっ…お前放せって。つか、何でここにいんの?」

突然のその人の行動に私は驚いたけど、先輩は少しためらいながらも決してその腕を引き剥がそうとはしていない。

「えーー?最近全然かまってくんないし、来ちゃった」

おどけた感じで先輩を上目使いに見上げるその人。

「は?そんなんいつもじゃねぇか」
「だって会いたいって言えば、会ってくれてたのにぃ」
「それはお前と俺がそういう関係……ヤバッ」

先輩が私の存在を思い出したのか、言いかけた言葉を途中で呑み込んだ。

「何何〜?新しいコ?
え!?超お嬢様系じゃん。趣向変えたの?」
「バッ…黙れって」
「えーー。いいじゃん」
「いいわけねぇし」

私はその光景を呆然と見ていて、ハッとした。


"……そっか。そうだよね。いない方がおかしいよ……"

"彼女さん……"



ズキンッ



そう思った瞬間、心に痛みが走った。

二人の仲良さげなやり取りを見て、ドクドクと音を立てて早まり出した鼓動。

嫌な感情が湧き起こり、渦巻く。



"見たくない"



『一先輩。私、ここで失礼しますね』

鞄を持つ私の手に力が入るのがわかり、それでも何とか平静に言えた言葉。

私はペコッと二人へおじぎをして、その場に背を向けた。

「え?ちょっ……月瀬さん!?」

すでに歩き出していた私の後ろから、その私を呼ぶ先輩の声が聞こえたけど、私には振り返ることなんて到底出来なかった。


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