猫の湯~きみと離れていなければ~

「おー、感心感心。思ったより早いじゃん」


息をきらして駆けつけたわたしを陽向は笑顔で迎えた。

待っていたのは陽向一人だけ。

莉子も一緒なのかもと思っていたわたしは少しホッとした。


「おはよ、ってこんなに早い時間にどうしたの?」

「目が覚めた」


陽向はあっけらかんと答える。


え? もしかしてそれだけの理由?


呆れて言葉も出ないわたしを説き伏せるように陽向は続けた。


「夏になったらもっと早起きだぞ。またみんなでカブトムシ取りに行かなきゃなー 」


子供のとき夏休みになると、陽向と陽向のおじちゃん、そしてパパとわたしの4人で朝5時に起きて、近くの神社の林の中に何度も連れて行かれていた。


それはそれで楽しかったけれど…


でも高校生にもなって虫のために早起きをしなきゃいけないなんて、ありえない。


「絶っ対にやだ。行くならわたし抜きで行ってきて」

「鈴はいつから男のロマンが分からなくなったんだよ? 変わっちまったなぁ…」

「わたしは女の子なのっ」


ロマンじゃなくて、あなたたちが子供のまんまなだけでしょう?

そんな寂しそうな顔をしても絶対に行ってあげない。


「それよりこれからどうするの?」


学校が始まるまではまだかなりの時間がある。


「ちょっと連れて行きたいところがあるんだ。ご案内いたしまーす」


連れて行きたいところ?

陽向はそこを思い浮かべているのか、楽しそうに歩き始めた。


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