猫の湯~きみと離れていなければ~
地域猫というのは聞いたことがあるけど、学校猫ってこんなに待遇がいいものなの?
驚いているわたしを、陽向がもっと驚かせた。
「陽向、何を持っているの? 」
「ノルウェー産のサーモンのハラミの刺身だけど? 」
「…なんで? 」
「長さんへのご飯に決まってるだろ? 」
猫好きってここまで猫バカなの?
それとも陽向がバカなだけ?
いや、
きっと陽向がバカなんだわ。
「見回り中みたいだし、また放課後にこよっか? 」
「わたし、今、誘われた? 」
陽向はうんとうなずいた。
黒猫がいるときを狙ってまた来るなんて冗談じゃない。
「…置いておけばいいんじゃないの? 」
「どうせなら直接渡したいんだよ。それにほら、あいつが狙ってるぽいしな」
少し離れた所にこっちをじっと見ているカラスが1羽。
首もとの羽が白い、あまり見かけない珍しいカラス。
わたしと目が合うと威嚇するように一声「ギャアー」と鳴いて飛び去っていった。
黒猫も不気味だけど、あのカラスもなんだか気味が悪い。
「理科室の冷蔵庫にでも入れておけば傷まないよな」
陽向は素晴らしいことをひらめいたかのようにわたしにあいづちを求めてきている。
理科室の冷蔵庫って、多分、食べ物と呼ぶにはほど遠いものがたくさん入っていそうだけど。
まあ、わたしが食べるんじゃないし、いっか。
「でもまだ理科室には入れないんじゃない? 」
「じゃ先にコンビニで朝飯でも買いに行くかー」
時間はまだ7時を少し過ぎたところ。
わたし、本当にこの為に起こされたんだ。