猫の湯~きみと離れていなければ~

「苦手なだけだから。それに陽向は知っているし」


あなたたちのことはもっと苦手なんですけどね。

と心の中で言い返してみた。


「ってかあんたさぁ、逢坂くんを呼び捨てにするのやめてくんない? たかだか幼なじみってだけなのにうざいんだけど」
「自分の物気取りなんじゃないの? 図々しい女ぁ」


「わたしたちがどう呼び合おうと、あなたたちに言われることではないと思うんだけど? 」


“猫が苦手”から“陽向の呼び方”に話が変わってしまっている。

面倒くさいのに捕まってしまったと祥子に視線を送ると、呆れ顔をしている祥子はうなずき返し『行こう』とわたしの腕を引っ張った。


「ってゆーか、泥棒猫が猫嫌いってマジうける」


この美穂の言葉が、背を向けて歩き始めたわたしの足を止めた。


「泥棒? …それどういう意味?」

「あんたさぁ、昨日逢坂くんに抱きついてたらしいけど、莉子さんから奪おうとでも思ってんの? 」
「あんたみたいな地味で暗い女、逢坂くんが幼なじみだから仕方なく相手をしてるのが分からないの? 勘違いしすぎー」


わたしが陽向に抱きつく?
なにそれ?


もしかして…、

副会長を避けるのに陽向にしがみついたのを見られてた?


それぐらいしか思い浮かばない。


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