猫の湯~きみと離れていなければ~
それに陽向が幼なじみとして接してくれているのは分かっているつもり。
そして陽向と莉子と一緒にいるわたしは場違いだということも。
でも完全な赤の他人のこの2人にとやかく言われるのも、陽向の気持ちを勝手に代弁されるのもいい気はしない。
陽向とわたしのこれまでを、土足で入ってきて踏みにじられているようで許せない。
「言い返せないってことは図星だったのかなぁ? 」
「やだー、めっちゃ怖い顔してんじゃん」
わたしは手を握りしめると、ニタニタと嘲り笑う2人を睨みつけた。
そして口を開こうとしたとき、祥子が思いきり腕を引っ張りだした。
「鈴、行こう。この人たち妬んでるだけだから相手にする必要ないよ。自分たちじゃ鈴に敵わないの分かってるから大ファンの莉子の名前使ってるだけだろーし」
「はぁ? うるさいブスっ、黙れ」
「あんた関係ないんだからどっか行けよ」
「ほら図星。ね、こんな幼稚で野蛮な奴らと話すだけ無駄だから行くよ」
祥子は2人には一切返事もせずにわたしをこの場から引き離した。
「キャハハ、逃げた逃げたーっ」
「みなさーん、風森 鈴は身の程知らずの泥棒猫ですよぉ。気をつけてーっ」
祥子に引っ張られるわたしの後ろからは、人目も気にせずに騒ぐ美穂と久美子の不愉快な笑い声が響きわたっていた。